They go on each way.
駅から幾らか離れたファーストフード店のフードコート。
四人がけのテーブルに私の正面が芽実、右隣が瑞希という形で座っていた。
芽実は不思議そうな顔をして瑞希を眺めていて、瑞希は私を見つめていた。
「彼女が俺の娘の芽実。で、彼女は婚約者の瑞希さん」
「えと、初めまして」
「……初めまして」
芽実はやや緊張しながら、瑞希はむすっとしてそう言った。
瑞希の不機嫌は恐らく芽実に当てられたものではなく私に対するものだろうが、それにしても……。
「離婚していたとは聞いていたけれど、娘さんがいるなんて初耳だわ」
瑞希は先ほどよりも語気を強めて私に耳打ちする。
「……芽実とは、もう逢えないと思っていたんだ。それがこの間ここの駅前でばったり逢って、今日改めて会おうって」
「そう。でも、そういうことはちゃんと私に言ってね」
そう言うと彼女は私の耳元から離れていった。それから芽実へと向き直って、
「私は継母(けいぼ)ということになるのかな。よろしくね」
先ほどとは全く違う表情でそう言う。
あれだけの説明で合点がいったとは思えないけれども。
「こちらこそ。その、父を宜しくお願いします」
そうやって娘に言われるのは気恥ずかしかった。
確かに二人がこれから会うこともそうないだろうし、こんな時でもなければ言えないことだろうけど。
「うん。それじゃあ邪魔するのも悪いし、私は失礼するね」
瑞希は芽実に微笑みながらそう言って、席を立つ。
「また、連絡するから」
私がそう言うと彼女は振り返って、
「待ってるね」
そう言う彼女は笑ってはいたが、しかし目だけはそうではなかった。
つまり、納得したわけではなく、ただ芽実を過度に意識しなくても済むのだと分かったということだったのだろう。
私は未だ娘がいるのだと明らかにしなかったことを彼女に許されたわけではないということか……。
そうして、瑞希は私たちに背を向けて落ちついた様子で店を出て行った。普段通りの彼女で。
それが逆に恐ろしくもある。
「……綺麗な人だね」
娘は一言そう評する。
長らく付き合ってきた私から見てもそうだと思う。酸いも甘いも知っていても。
「何時頃結婚する予定なの?」
「これからそういう話をするつもり」
「そう。とりあえず、おめでとうって、言っておこうかな」
首を少し傾げて笑顔で言う。
作品名:They go on each way. 作家名:高良 七