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They go on each way.

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だとしたら、この話題は避けた方がいいのかもしれない。
思い返しても、見られて気まずいことがここであった気はしないのだけど。
「それより、大学の方はどうなんだ?」
「楽しいよ。色んな府県に住んでいる人に出会えたり、色んな場所に行けたり──
そうして彼女は先ほどと打って変わって大学のことを嬉々として話し始めた。
受験のこと、学生生活のこと、学科での勉強のこと、サークル活動のこと、一人暮らしのこと。
新しくできた友達のことに、少し躊躇いながら──できた彼氏のこと。
もちろんそれに妬かない理由はなかったけれど、それよりも寧ろもうこんなにも大きくなっていたのだということが嬉しくもあり恥ずかしくもあり悔しくもあった。
彼女がそれだけの変化を持つまでに至った時間に私はいなかったのだと改めて思い知らされる。
芽実と最後に会ったのは十年以上前。
彼女が小学校に入って最初の冬だった。
その時私の口から直接彼女に別れることを説明したことはない。
きっと芽実には何も言わずに去っていってしまったと映っていたのだろうと思う。
私と彼女を合わせもしなかったあの人が事の事情をちゃんと説明したとも思えない。
でも、十数年ぶりだというのに彼女は私のことを私だと分かっていた。
もしかすると芽実はあの人には内緒で写真か何かを取っておいたのかもしれない。
これがその上でようやく会えたものだとしたら──。
「お父さん?」
呼ばれて見上げると、芽実が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
そうして徐に脇に置いたカバンからハンカチを取り出して私に差し出してくる。
「……?」
「もう、何で泣いてるの」
苦笑いしながら、彼女は差し出したハンカチを更に私に近付けてくる。
私はほんの少しだけ迷ってからピンクのそれを手に取る。
「ちょっと、な」
会えなくなったことを認めた私と、ずっと会えると信じてきた芽実。
どちらの方が会えなかったことが悲しかったのかなんて馬鹿なことを考えて。
この涙を拭っても、諦めていた私に泣くような資格なんてないんじゃないかと思えて、尚も涙は止めどなく溢れてくるのだった。
作品名:They go on each way. 作家名:高良 七