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They go on each way.

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日曜日。
仕事も予定もなく一人暮らしを持て余すつもりだった日、私はあの駅前へと出向いていた。
この駅の周辺には様々なお店が構えているが、駅に向かって建っている喫茶店は一つだけだった。
ビルのテナントとしてはこの駅周辺で一等地と思われるそこに、その喫茶店はひっそりと構えている。
派手でもひけらかすでもない落ちついた木目調の外装に小さく書かれた店名。
今日もそのお店は以前と変わらずそこにあった。
入口に立てかけられた看板にはその日のお勧めが書かれている。
約束の時間より十分ほど早くそのドアを開ける。
ジャズの優しく流れる店内に清涼感のある鐘の音が静かに響いた。
マスターという言葉の似合う馴染みの店主と目が合って微笑みを投げかけられる。
それに応じてから店内を見渡すと、店の奥の席で私に手招きをしている芽実が目に入った。
ピンクを基調としたフリルのついたワンピースに赤いハイヒール。
それはどう見てもおめかししたよそ行きの恰好だった。
私は彼女の手に導かれて、その向かいに座る。
そのテーブルは二人がけの小さなもので、彼女の前には一杯のコーヒーが置かれていた。
ドリップの蓋とシュガーの口は開いていて、私はそれに少し安心する。
「早いな」
当然余裕を持って着いたつもりだった。
「ううん。私もさっき着いたところだから」
そう言う彼女の前にあるコーヒーはもう半ばほどまで減っていた。
それだけここで待っていたということだろう。
それは、彼女にとってここでこうして会うことがそれだけの重みがあるということ。
加えて気を遣ってもくれているのだ、嬉しくないはずがなかった。
それから少し間があって、そこへウエイターさんが注文を訊きに入った。
いつものと言えば通じるけれども、私は少しだけ迷ってからブレンドコーヒーと頼んだ。
そうして彼女を見遣って首を軽く縦へ振るのを受けてから、ウエイターさんに首肯して注文の終わりを告げた。
「ここへはよく来るの?」
下手にここを意識させることに抵抗を感じて悟られまいと思ったのだけど、そうも上手くはいかないらしい。
「ああ。暇を持て余した時に、時々。芽実は?」
「えっ、私?私も帰りとかに時々寄るよ」
「すると、もしかしたら会っていたかもしれないな」
「……うん」
少し目を伏せてそう言う。以前にも見かけたというのはもしかしてここでのことなんだろうか。
作品名:They go on each way. 作家名:高良 七