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They go on each way.

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木曜日の夕方頃、私の元に娘からそんなメールが届いた。
久しぶりに会ったあの日は喜びと勢いがあったのか会えなかった時間をそれほど感じさせることもないようなやり取りだったけれども、その後は言葉に微妙な距離がある気がする。
かといって、メールが素っ気ないということはない。
この前、芽実のいう"駅前"の"駅"で彼女と久しぶりに──もうあれから十年以上も経つのだ──はたと居合わせて、その時に携帯電話の電話番号とメールアドレスを交換した。
聞くところによると以前にも街で見かけたことがあるらしい。
それならこの前と同じように声を掛けてくれればよかったのにと言うと、少し決まりの悪そうな顔をして俯いてしまったので、それ以上は何も言わなかった。
恐らくは彼女にも何か思うところがあったのだろう。
駅前で偶然会って以来、二、三のメールのやり取りはあったものの直接会うことはなかった。
恐らく毎日同じ駅を利用しているのだろうが、そこで見かけることもなかった。
つまり、あの日駅で会えたことは本当にたまたまなのだろう。
私が少し遠くの料理店で瑞希に結婚を申し込んだり、芽実がサークルの飲み会で遅くなったりしていなければ会うこともなかったのかもしれない。
そう思うと今こうして彼女とメールしていることも不思議なことのように思える。
今思えば、あの日の勢いはただ嬉しかったということだけではなくて、お酒のせいでもあるのかもしれない。
メールの文面よりあの時の言動の方が本音なのだと思えば、幾分か気が楽になる。
そうだといいのだけども。
彼女とは十年以上前に以前の妻と別れて以来だった。
何時頃からその仲が険悪になったのか今となっては思い出せないが、そういう状況になって前妻と別れようという話になった時、親権裁判を起こすに至って私はそこで負けてしまった。
その後調停では定期的に芽実と会うということになっていたのだけども、前妻にはそれを反故にされていた。
その喪失感からようやく回復しようという頃に出会ったのが瑞希で、その頃にはもう芽実と会えるとも思っていなかった。
ただ何処かで健やかにしていてくれればいいというだけだった。
それがこうして会えて、しかも彼女からまた会おうと言ってくれている。
その状況が嬉しくないはずがなかった。
定時過ぎの社内で歓喜して声をあげたことは人には言えない秘密である。
作品名:They go on each way. 作家名:高良 七