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掌の小説

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彼は診察室の奥から左へ折れて一つ部屋を過ぎてさらに奥にある暗い小部屋に入った。ベッドに横になり、腹をまくりあげると、腹にゼリー状の物が塗られた。医者はまた痛いところを探り、何かを腹にあてた。彼にはそれが何かは見えなかった。
「何ともないよ。胆嚢も腎臓もきれいだし。あと痛いって言ってたところ、骨だよ。肋骨。」
「そうですか! 胆石だと思ってたんですよ。ネットで調べたら症状が一致してて。ああ、良かった!」
「胆石だと思ってたのね。はあい、大丈夫です。」
医者は小部屋から去った。看護婦が後片付けをしていた。壮太は、「良かった。良かった。」と独り言を呟いた。気持ちの中の靄がきれいに晴れた。きれいに晴れ過ぎて、その喜びに彼は少し戸惑った。看護婦は彼のつぶやきが聞こえないふりをした。
 病院から出ると、彼には何もかも親しく見えた。玄関の前へとトラックがやってくる。そのトラックの荷箱に書かれた文字を一つ一つ丁寧に愛撫するように読んでいく。トラックの動きを丁寧に目で追って楽しむ。病院の周りには灌木など植物がたくさん生えていて、その間からわざと置かれたような大きな岩がいくつか見えた。彼の心からは、感情がさわさわと流れ落ちていた。限りなく、清冽に。誰かれ構わず挨拶がしたかった。彼は、もはや若さなど失ったと思っていたが、自分の内臓はまだとても若いという端的な事実を前にして、若さを取り戻したような気分になっていた。だが取り戻した若さもすぐに当たり前になった。まだ35なんだし。

作品名:掌の小説 作家名:Beamte