掌の小説
追い打ちをかけるように彼は言って来た。違うんだ、そうじゃない、俺はあいつらの仲間じゃないんだ、頼むから分かってくれ、そう思った。だが、
「ごめん。気に障ったみたいで。」
私はそれしか言えなかった。そして名づけようのない感情の高まりを抱えたまま、病室の入り口へ戻り外へ出てドアを閉めた。
帰りの電車の中で、私は泣いた。怒ってもいた。社会の不条理さへの憎しみ、純真な人間が餌食にされることの悲しさ、自分が何もできなかったことの悔しさ、怒り、そして自分の誠意が届かなかったことの悔しさ。向かいの席に座っていた二人組の女子高生の片方が私の涙に気付いて小声で言った。
「あの人泣いてる。」
「うそー、男らしくない。」
なんとでも言えばいいと思った。この涙は美しいんだ。いくらでもばかにすればいい。だがいくら私が泣いたところで斉藤の問題は解決しない。私は余計に涙があふれて来た。