掌の小説
僕はそのとき、急に怒りに襲われました。何で後藤が佐藤の家にいるのだ、と。僕はもともと後藤でしたから、お母さんも後藤なわけですが、今僕は佐藤なので、佐藤家に後藤家の人間が勝手に入ってきて母親面をしているわけです。これは侵してはいけないタブーに触れてしまっています。
「出ていけ!」
僕は血相を変えてお母さんに言いました。すると、お母さんは初めの液晶画面での顔や体型に戻り、僕を嘲笑いながら言いました。
「お前が出ていくんだよ。」
僕はすると、部屋にあった液晶テレビに吸い込まれて、その暗闇に同化して存在することをやめてしまいました。