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クッキーせんべいチョコレート

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「食いたいならそう言えってば!」
 知らず知らず声のボリュームが上がってしまう。頭がくらくらする。
 待て待て待て。何か大変な失敗をやらかしていたのかしらこの僕は。
 両耳を塞ぐようなポーズをしつつ、ナツはまた睨むようにして口を開いた。
「もうっ! そういうのを逆ギレって言うのよ! まったく、少しは反省しなさいよ」
 反省。深呼吸を一つ。すう、はぁ。
 目の前の、成長した幼なじみを見つめる。
 彼我の距離、およそ一メートル。
「……ちなみに、質問してもよろしいでしょうか?」
 腕を組み、こちらを見下ろすスタイルの彼女にお伺いをたてる。
「もしかして、もう一つ、似たような疑問があったりするの?」
 彼女は瞬時に答える。
「えぇ、もしかしなくてももう一つ。最後は二年前。高三の時のやつ」
 忘れるわけがない。忘れられるはずがない。あれは、付き合ってもいつも結局は嘘をつき通せずに別れることになってしまうこの僕が、人生を賭けた最後の告白だった。
 そして――永遠の失恋だった。
 ……はずなんだけど。
「しゅうは例のごとく怖い顔で、『ナッツ、二十歳になったら、僕と一緒に…来てくれ』なんて言ったのよ。だから『どこに?』って聞いたのに、しゅうは『一緒に』なんて真顔で言うんだもん。卒業式の準備諸々で忙しかったのにさ、ギャグとしてのレベルも低いし、何が言いたいの?、みたいな感じだったから、『付き合っていられないわ』って返したのよ」
 『僕と、一緒に生きてくれ』って言ったんだよっ! 
 プロポーズだよっ! 気づけよっ! 
 頭の中は半パニック。今までの寝ずに考えた名告白の数々がことごとくギャグにされていたと?
 …………告白だとすら伝わってない!?
「結局、全部、一ミリどころか、一ナノ、いいえ、一ピコの面白さも含まれていない、くだらないギャグだったの?」
 いぶかしむような、品定めするような、あるいはもっと別の答えを待っているような、そんな表情で、僕の瞳を真っ直ぐに見つめて、彼女は問い掛けてきた。
 もう、頭の中が真っ白で。どうしたもんだか。笑うしかないとは、このことか。
 あはははは。
 でも、砕けてしまうには、まだ早い。だろ? おじいちゃん。
「ところで、ある少年が次から次へと女の子と付き合っては、ことごとくあっさりと振られる理由って何だかわかる?」
「へ? それってしゅうのこと?」
 一瞬キョトンとした後で、毎度の凶悪さを内に秘めたような笑みを浮かべて(でも可愛いんだよなぁ)、自信たっぷりに答えた。
「そうね、きっとその少年は幼い頃に不幸にも近所の気のいいおじいさんから骨の髄まで親父ギャグを叩き込まれてしまったのよ。だからね、まるで『今日はいい天気ですね』とでもいうような調子でギャグを浴びせられる女の子はすぐにストレスで参っちゃうわけよ」
 ずいっと、体を寄せて、人差し指を僕の額に突き立てながら、
「図星でしょ? 女の子に振られてばっかりの少年くん♪」
 間違いないでしょ? そんな調子で天然ボケ(自覚症状無し)幼なじみは楽しそうに額を何度も突っついてくる。痛いってば。
 僕は自分の十年間のあれこれを走馬灯のように思い出し、がっくりとうなだれた。
「ん? どしたの? 図星過ぎて立ち直れなくなったのかな~」
 明らかに僕をおちょくって楽しんでいる。肩までのショートヘアを垂らすようにして僕の顔を下から覗き込んでくる。
「ん? どしたどした? 図星だったんでしょう? 白状しなさいなこのナツお姉さまに! それともあたしが久しぶりにしゅうのギャグを判定してあげようか?」
 顔のすぐ直下、言葉が行き交うだけの空気以外には、僕とナツとの間に、何も無い。
 その、想い人のあまりの近さに、僕は、ドキリとする。
 懐かしい、三人であの縁側に座っていた時よりも、おじいちゃんが間に座っていない分だけさらに近い。
「ほれほれ!」
 悪乗りするのも昔から変わらない。
 何でこんなにも、彼女は無防備なのだろうか?
 何でこんなにも近くに彼女はいるのだろうか?
「へ?」
 刹那の時間が過ぎて、一つの驚きの声が上がり、僕たちは再びシートの上に寝そべっていた。
 太陽の光からナツを隠すようにして、僕は彼女の頭の横に両手をついて自分を支えている。僕の体はナツの上にあって、ナツの体は僕の下に組み敷かれている。
 …………やっちまった。
 ナツはその口をパクパクと金魚のように開け閉めしながら、目を真ん丸くしている。
 いつものように、一晩寝ずに口説き文句を考える時間は無い。
 ただ真っ直ぐに、ナツの、澄みきった、真ん丸に見開かれたままの瞳を見つめて告げた。
 大きく振りかぶって、球は直球、一球入魂。
「えぇと、僕、ナツのことが好きなんだ。十年前、あの縁側で出会ったときから今まで、ずっと。ずっとナツだけのことが、好きだったんだ」