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クッキーせんべいチョコレート

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side G[girl’s request]



 あたしたち、しゅうとナツは、お互い一人っ子で親が共働きで、学校の帰り道にせんべいのおいしそうな香りに誘われてふらふらと入った日本家屋百パーセントの縁側で出会った。
 その家には一人暮らしの料理好きな気のいいおじいちゃんが住んでいて、あたしたち二人の放課後は、決まってその縁側でせんべいやクッキー、それに素晴らしいチョコレート!、を食べながら色々と話すのが日課になっていた。
 おじいちゃんは、あたしたちと出会って割とすぐに死んじゃったんだけど。
 でも、おじいちゃんがあたしたちに与えてくれた愛情は、血の繋がりに劣らないくらい素敵で、おじいちゃんとの出会いが無ければ得られなかった大事なものがたくさんある。
 とびっきりおいしいチョコレート、歯がいつの間にか鍛えられてしまった硬くて、でもおいしい頑固なせんべい、そして、縁側で出会った大切なひと。
 彼はいつだって好きな女の子を追いかけて、散っていった。
 あたしがこんなに好きなのに、あいつはちっともこちらを見向きもしなくなっていった。
 たまに面と向かって話せたと思ったら怖い顔でわけのわからないギャグを言って走り去っていく始末。
 だから、確実に二人っきりで会えるおじいちゃんの墓参りでは、あの、今や思い出でしかない縁側での二人でいられるように、涙を見せないで済むように、一時間も前に来て枯れるまで涙を流しきって、お化粧を直して、彼が現れるのを、ドキドキしながら、せんべいを砕く音で高鳴る心音を誤魔化して、待っているの。
 彼が待ち合わせの時間よりもほんの少しだけ早く来ると、嬉しさを隠すために睨みつけることしかできない。
 彼にはいつだって、想い人がいるから。

 そして、あたしに影を落としながら、しゅうは真剣な顔で言った。
「えぇと、僕、ナツのことが好きなんだ。……」
 なんですとー!?
 落ち着け、ナツ。てことはさっきの長年の疑問を勇気を振り絞って聞いた時のしゅうのどこか衝撃を受けたような表情とかは、つまり今までの怖い顔は全部、真剣な顔だったってことなの?
 あれってば、告白だった……?
 何かしゅうがまだ口を動かしているけど、もう何を言っているのかまるで頭に入ってこない。あたしもさっき驚いて声を上げたまま、ずっと口をパクパクさせているんだけど、何を言いたいんだろ、あたし?
 今までの出来事がパズルのように組み変わっていく。
 しゅうが女の子に告白したのは、最初にしゅうが怖い顔をしてた次の日。
 その次も、その次も……。
 じゃあ、しゅうが次々と告白したのも、すぐに別れちゃうのも、全部、あたしのせい?
 うわー、わーわーわ~。
 おじいちゃん、しゅうにギャグよりもわかりやすい日本語を教えておきなさいよっ!
 あたしの十年間の独り身ライフの責任をとりなさいっ!
 頭がグルグル、誰にぶつければいいのこの気持ちはっ!
 まぁ、しゅうでいっか。
 いつの間に話し終えていたのか、不安げな顔でフリーズしたままのしゅうがボーっと精根尽き果てた様子で目の前にある。さすがに、このままにしとくのも面白いけど、可哀そう、かな。でも、ちゃんと責任は取ってもらうわ。一生かけて。
「しゅうって、料理も出来るの?」
「うん? まぁ、人並み以上には」
「じゃあ、来週の日曜日にお弁当とおやつ、二人分作ってきて」
「……えぇと、それは、つまり……?」
「デートに決まってるでしょ? まったく、しゅうが最初からハッキリ言ってればこんなにめんどくさい事にならなかったのよっ! このバカしゅう! おじいちゃんが変な口説き文句だのギャグだのジョークだの教えるのがいけないのよっ! あたしくらいじゃなきゃ、しゅうの日常会話についていける女の子なんていないでしょ! しゅうには責任をとってもらうからね!」
 ふぅ、一気に言いたいことを言い切ってやった。よし、つかみはオーケー。
 ポカンとしているしゅうをどかして、立ち上がる。眩しい光を感じて、あたしはなんだかひどく久しぶりに日差しを浴びた気分になる。
 腕を思いっきり伸ばして、深呼吸をして、新鮮な空気を吸い込む。
 気持ちいい。今まで吸ったどんな空気よりも、おいしい。
 きっと、心が満たされているから。
 まだシートの上で四つんばいでいるしゅうを起こすために、言葉を探す。
「いい? 飛びっきりおいしい手作りのお弁当よ! しっかり愛情を込めてね♪」
「わ、わかった」
 まだ、夢を見ているような様子のしゅうに、ここぞとばかり次々と要望を告げておく。
「おやつはね、一つリクエストがあるんだけど、もちろん作ってくれるわよね?」
 しゅうが正常に思考回路が働いていれば、ひとつふたつ反論してきただろうけど。
 でも、これは譲れない、前々からのあたしの飛びっきりのリクエスト。
「あ、うん。それで、リクエストってのは、何?」
「チョコレートクッキー。ただし、せんべいみたくかた~く焼き上げてね♪」

<終わり>