小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
獄寺百花@ついったん
獄寺百花@ついったん
novelistID. 7342
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

x.eyes

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

「いくぞ、ロイ!」
「はい!」
 二人は病室から出ると勢いよく飛び出していった。


 ワイト達は戦場となったイクス王国の大通りを走っていた。道端にはおびただしい量の紅の血、無残に斬り殺された男たちの死体、泣きわめく女子供の姿……。もし地獄というものがこの世界に存在するならば、この光景はその地獄というものにあたるだろう。ワイトはこのあまりにも酷な現実にくじけそうになったが、自分がくじけていてはイクスの民をまとめることなど不可能だ、と思い自分を奮い立たせた。ワイト達にも容赦なく襲ってくるイクスの民たち。ワイトは悲しい目をしながら襲ってくる彼らを気絶させていった。決して、殺しはしなかった。
「く……、やはり片目では見えにくいな」
「大丈夫ですか、ワイト様……?」
 ロイが心配そうに声をかける。彼は傷一つ負っていなかった。ワイトを守るためにたくさんの敵をなぎ倒していたのに。
「私は大丈夫だ。……ロイ、お前は大丈夫なのか? 私のために無数の民たちと戦っていただろう?」
「僕は大丈夫です。体だけは丈夫ですから!」
 満面の笑顔を向けるロイ。ワイトもそれに釣られてついつい笑ってしまった。
「こんな内戦はもうじき終わるだろう。なにせ、イクスの民だけが戦っておるからな」
「そうですね……。確かにイクス王国の中でしか被害は広がらないでしょう」
 ロイがそう言いながらあたりを見回す。それから、何かを見つけたそぶりをしてワイトに声をかけた。
「ワイト様!」
「どうした、何かあったのか?」
「あそこに情報屋がおります。あれに聞けば情報を得られるかと」
 ロイは笑顔でワイトに言う。ワイトは感心した顔でロイを見た。
「でかしたぞ、ロイ。早速聞きにいこう」
「はい!」
 ワイトとロイは情報屋のもとへ走っていく。背はラーク並みで性別は男だろう。黒く丈の長いコートにすっぽりとフードをかぶっていて、情報屋の顔をうかがい知ることはできない。不気味にキラリと光る目が、彼の気味悪さを一層強いものにしていた。
「………何か、用か?」
「私に情報を売ってくれ。このイクス王国の現状について知っている情報を全て売ってくれ」
「金はいらないぜ。てめえ、イクス王国の姫だろう?」
 情報屋の紫がかった目が光る。ワイトは息をのんだ。
「ああ、そうだ。では情報を売ってくれるな?」
「それが俺の仕事だ。……いくぜ」
 情報屋はそういうと軽く目をつむり、イクス王国の現状を語り始めた。
「『イクス王国では九代目国王ラファエル・ダージン・イクスが乱心。自身の兄弟を皆殺しにする。そして自分も自殺。国王が自殺し王国は混乱状態になりいまだ内戦が続く。そしてイクス王国に隣国のジス王国が侵略を開始した』……これが俺の知っている全ての情報だ」
「そんな、父上が自殺など……。それになぜジス王国が!?」
 絶望した顔になるワイト。もう彼女はなにがなんだかわからなくなっていた。最愛の父と母を失い、その上自分の国で内戦が起こり、今まさに他国に侵略されようとしている。彼女の精神はもう限界に達していた。そしてゆっくりと地にひざを落とし、静かに泣いた。ちっぽけな自分の存在を呪い、またこんなに酷い自分の運命をも呪った。
「なぜ、なぜこんなことに……。それにアディエルまで私の大切な国を潰しにかかるのか」
「ワイト様……」
 ロイは今のワイトにかける言葉を見つけられなかった。彼女の力ではどうにもならない事が重なりすぎたのだ。ロイはワイトを救いたかった。だが今の彼には不可能な事であった。
「アディエルっていったら、ジス王国の王じゃねえか。おい女、てめえと関係があんのか?」
 黙っていた情報屋がワイトの「アディエル」という言葉に反応する。ワイトは重い口をゆっくりと開いた。
「アディエルとは、昔からの幼馴染みだ。隣国で年が近いというのもあって、毎日一緒に遊んでいたものだ……」
 ワイトはアディエルとの物語を話し始めた。涙で濡れている目をゆっくりとふきながら。


あれは今から八年前……。私がまだ六歳の時の出来事だった。当時イクス王国とジス王国は貿易などを通じてお互いに親密な関係になろうと政略結婚をくわだてた。イクス王国の姫、ワイト・ダージン・イクスとジス王国の王子、アディエル・ムーブ・ジス。驚いたことに王子はまだ五歳になられたばかりであった。私とアディエルはただ政略結婚の道具にすぎない。幼いながらも私はそう理解していたのだ。しかしアディエルは友達ができたと一人はしゃいでいた。いつからだったのだろう……。そんなアディエルに心が動くようになったのは……。

 いつも私は城の庭先で本を読んでいた。でも、毎回あいつは私の邪魔をしにやってくる。
「ワイト! 本ばかり読んでないでこっちで一緒に遊ぼうよ!!」
「ふう~……。またかアディエル? して、今日は何をするというのだ?」
いつも本を読み終わる前にアディエルに呼ばれる。一日で読み終われる程度の哲学書などがアディエルのせいで二日はかかってしまうのだ。……別に、それが嫌だとは思っていなかったが。
「今日はこれで遊ぼう!」
 アディエルの手に握られていたのは二本のよくしなる剣。
「……フェンシングか?」
「あったり~! 今日はこれで一緒に遊ぼうよ!」
 私は直感した。こいつは絶対にフェンシングのルールをわかっていない、と。
「遊ぶ? これは格闘技だぞ、一歩間違えれば……」
「文句を言わない! さ、やるよ~」
「私に勝てると思うのか、アディエル?」
シャキン、シュッ、カキン……
しなやかに剣を振り攻撃を加える。アディエルは私の攻撃を受けるので精一杯のようだった。「……隙ができているぞ」
「あっ!?」
 アディエルの首に軽く剣をつきつける。アディエルは自分の剣を落とした。そして私を怯えた目で見ていた。
「ふっ、勝負あったな」
「はあ、はあ……」
 肩で息をするアディエル。私はうっすら笑みを浮かべながら憎まれ口を叩いた。
「どうした? もうおしまいか。さすがは王子様だなあアディエル!」
「なぜ僕は君に勝てないんだろう?」
 アディエルは私の憎まれ口にひるむことなく、そうつぶやいた。
「知らぬ。もう少し毎日の鍛錬を積めばいつの日か、私を超えるときがくるだろう」
「うん、僕がんばるね!」
「………ああ」
 どんなに私に勝てないとわかっていても……いや、わかっていなかったのかもしれないな。私はいくらののしられても顔色一つ変えないアディエルがうらやましくも尊敬していた。好きだった、というべきことかもしれないな。だがそんな幸せな日々も私が八歳を迎えたとき、無残に砕け散ってしまった。

『イクシャル戦争』
作品名:x.eyes 作家名:獄寺百花@ついったん