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獄寺百花@ついったん
獄寺百花@ついったん
novelistID. 7342
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x.eyes

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 ラークはそう言うと、英字で書かれた書類を見せる。
「……イクスの中で内戦が起きし時、国王は自害す。内戦の原因、それ、国王の乱心であり止められぬ。イクスの民、戦争で死す。混乱に乗じた国のせい、イクス王国消える。
なんだこれは!? こんな文書、嘘に決まっておる……!」
 ワイトはそう叫んだ。イクス王国の中で国王の乱心が原因で内戦が起き、イクスの国民が沢山死んでしまう。そしてその混乱に乗じた他の国のせいでイクス王国は侵略、支配される。尚、国王の乱心は誰にも止められない。という内容の文書であった。
「嘘だったらわざわざ俺がこんな所に行かないぜ。これはこのイクス王国の行く末だ」
 ラークは淡々とした口調で言う。ワイトは信じられないという風に肩を震わせていた。
「こんな……こんな、嘘だ!」
今にも崩れ落ちそうになるワイト。いつも冷静に振る舞う彼女だったが、この時ばかりは冷静になれなかった。次の皇帝になる可能性がある彼女としては。
「この未来を変えたいと願うのか、貴様は?」
 少し優しい声音でラークは言った。ワイトはゆっくりと顔を上げ、ラークの方を見た。
「か、変えられるものなら……、私は変えたいと願う」
 酷く弱弱しい声でワイトは言う。ラークはそれを聞いて少し不気味に笑った。
「なら俺が変えられる力をやろう。そして消え去ったその目も、片目だけ俺がやろうか」
 ワイトは驚き、同時に(こいつは何を言っておるのだ・・・)と思った。だが悪魔なのだから何ができても不思議では無いとも思った。
「本当にできるのなら私はその契約を結ぼう。だが見返りが何か聞いてからではないと容易に承諾はできぬぞ。……私は馬鹿では無いのでな」
 とワイトは真っ直ぐな眼差しをして言った。
「流石王国の姫君だな。だが、見返りはもう貰っているぞ」
 ラークはそう言うと小さな首飾りを取り出した。
「まさか、それは……」
 見覚えのある首飾り。ワイトの数少ない昔の記憶の一つに確かにその首飾りはあった。自分を愛してくれた今は亡き母親の宝物。彼女は知らないうちに昔の随想へ浸っていた・・・。


 ワイトが5歳の時。友達も作れない城の中で本ばかり読んでいた彼女は、自分の母親が自分にかまってくれる時が最も幸せであった。そんなワイトは自分の母親の誕生日に小さな首飾りを作っていた。彼女の宝物である拾ったとても綺麗な勾玉に、茶色の紐をとおしただけのシンプルな首飾り。でもワイトはそれを丹精込めて一生懸命に作った。
「母上、お誕生日おめでとうございます!」
 ワイトが笑顔で彼女の母親に言う。それを見た母親であるティファニー・ダージン・イクスは嬉しそうに微笑み、「ワイトが作ってくれたのですか? とても嬉しいです。ありがとう」と言った。
「母上に喜んでもらってよかったです。これから毎日つけてくださいね!」
 と、ワイトは明るく元気にそう言った。ティファニーは首飾りをつけ、ニコリと笑ってこう言った。
「ええ、死ぬ時までずっとつけていますよ。次のワイトの誕生日には私が貴方の為に作ってあげるわね」
「本当に? ありがとう、母様!」
ワイトは満面の笑顔でそう言った。そしてワイトの6歳の誕生日の時にティファニーから赤いルビーの手作りの首飾りを貰ったのだった……。


「……昔の随想はもういいか?」
ラークの声でワイトはふと我に帰る。彼女は知らないうちに己の首からさげたティファニーからのプレゼントである首飾りを握っていた。
「……お前は私の母様であるティファニー・ダージン・イクスをどうしたのだ!」
 ワイトは感情をさらけ出してラークに詰め寄る。
「別に殺したのは俺じゃねえ。魂を喰らっただけだ」
 そう言ってラークは手にある首飾りをワイトに投げた。ワイトは大切そうにそれをしまうと、再びラークに向き直った。
「魂を喰らった、だと?」
 何を言っているのか意味がわからないという顔をするワイト。それを見たラークは唇を歪めると、こう言葉をつむいだ。
「悪魔は死んだ人間の魂が大好物だ。特に死んですぐの魂がうまい。新鮮味が増すからな」
 不気味な笑みを浮かべながら言うラークに、ワイトは少なからず恐怖を覚えた。
「魂を喰われたらどうなるのだ?」
 ワイトはラークに疑問をぶつける。ラークは少し考えているような顔をした後再び口を開いた。
「人間は古き時より死後魂が輪廻転生すると言われている。だが悪魔に魂を喰われた者は来世に生まれ変わることが出来なくなるのだ。……永遠に、な」
 ワイトは驚き、そして怒りの表情となった。母親の生まれ変わりの道を閉ざした憎い悪魔を前に感情を抑えることなど出来るはずもなかったから。
「俺が憎いか。まあ自分の母親の魂を食われたと聞いて嬉しい人間などいるはずもないからな。だが輪廻転生できて前世がある者などこの世では一握りの人間にすぎない。皆大抵悪魔に魂を食われちまうからな」
 ラークは少し人間をあわれむように目を細めてワイトの方を見た。ワイトは怒りと恐怖が合わさった複雑な感情の中にいた。
「で、お前はどうするんだ? 俺との契約を結ぶのか?」
「私は……、この国の行く末がそのような悲惨なものだとしたらそれを止めなければならないという義務がある。この私の祖国、父上と母上が守ったイクス王国のためになるのならば、お前との契約を結ぼう」
 ワイトは固い決意を秘めた口調で言った。
「……貴様の決意、確かなものだと受け取った」
 ラークは右手にはめてある黒い手袋を脱ぎ、手のひらをくぼませて目を閉じた。すると不思議な事に彼の手のひらから綺麗な眼球が一つだけ出て来た。
「眼球が……でてきた!?」
「二つの眼球を作るにはまだまだ俺の力は及ばない。」
 ゆっくりとラークに近づくワイト。そして彼の前に立ち、こう言った。
「私の右目にその眼球をいれてくれ」
「痛いぜ?」
「覚悟の上だ。……もっと痛くしてもらってもかまわん。この契約の重みと苦しみを忘れたくはないのでな」
 ワイトは笑った。いつも見せるような優しくて品のある微笑みではなく、口角を無理やりあげたいびつで歪んだ不気味な笑みだった。
「わかった……いれるぞ」
「ああ」
 ラークの黒い手が漆黒の闇からワイトの目の空洞にのびる。その空洞はどこまでも深く、終わりなき闇が潜んでいるように見えた。ラークの指がついにワイトの右目の中に入った。そして少し中をかきまわし目玉が入るようにした後、一気に目玉を押し込んだ。
「ぐあ……う」
 普通の人間なら断末魔の叫びをあげるだろうこの何よりも辛い苦痛を、ワイトは少しのうめき声をあげただけで耐え切った。
「終わったぜ」
「……さっきとは変わらぬが」
「当たり前だ、ここは貴様の夢の中。目で見ずとも頭の中にイメージとして流れ込んでくるのだからここではさっきとはかわらないぜ」
 ワイトは目をぱちぱちと何度もまばたきを繰り返した。まるで生まれたばかりのあどけない赤子のように。
「貴様にこれをやる。契約の印でもあり、左目を隠す事も出来るだろう」
 手渡されたのは黒地に紫の刺繍が入った綺麗な眼帯だった。
「これは、イクスの紋章……」
「お姫様にはぴったりのデザインだろう?」
作品名:x.eyes 作家名:獄寺百花@ついったん