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獄寺百花@ついったん
獄寺百花@ついったん
novelistID. 7342
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x.eyes

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ヨーロッパの最南端にイクス王国という国がある。
17世紀後半に欧米諸国による植民地支配から独立し、比較的貧富の差も少なく、平和で治安のいい国だ。
その王国の9代目国王ラファエル・ダージン・イクスと、王妃ティファニー・ダージン・イクスの間に可愛い女の子が生まれた。その子の名はワイト・ダージン・イクスという。髪の色は銀髪で、目の色は灰色っぽい色をしていて、顔は目鼻立ちの整った凛とした顔をしている。
ワイトは国王と王妃の愛情を沢山受けて育った。勉学に励み、各国の言葉を学び、時には武術の稽古もした。幼い頃からの英才教育と、ワイト自身の努力が幸いしてか、成績はイクス王国で一、二を争うくらい優秀で、武術も男に劣らぬ程上達した。
だがしかし……。そんな平穏な日々にもいつか別れは来る。ワイトは14歳にして、思いもよらないことで平穏な日々を失ってしまうのだった……。


(ここは……何処だ?)
漆黒の闇の中ワイトは目を覚ました。目の前に広がるのは黒い闇。ワイトは不安になった。何も見えない恐怖感と誰もいない孤独感に。
(なにか鼻をつく臭いがする……。消毒液か?)
ワイトは少しでも周りの状況を知ろうと神経を研ぎ澄ませた。
(病院…?)
王国の姫であるワイトは幼い頃から幾度となく病院に通わされていた。月に一度の身体検査、流行り病のための予防接種……。ワイトは病院が大嫌いだ。検査や注射が嫌いというのもあるが、なにより死と常に隣り合わせになっている人々を見なければならないから。
(……怖い)
ワイトの口からこぼれたのは純粋な恐怖心であった。自分がどんな状況におかれているのかもわからない。
(ロイ……ロイはどこにいる!?)
とっさに従者の名前を叫ぼうとする。だがワイトの叫びは声にならない叫びとなった。
(声が……出ない? そういえば、身体が言う事を聞かぬ)
ワイトは自分のおかれている状況に気付きはじめた。どうしても指一本動かせない。思い当たる理由はワイトには無かった。……いや、ただ覚えていないだけなのかもしれない。
(っ…)
全身に痛みが走る。ワイトはその痛みに耐え切れずに意識を手放してしまった……。


どれくらい眠ったのか自分でもわからないほどワイトは眠っていた。起き上がろうと身をよじる。ワイトがいるのは病院のベッドの上だった。
「…っ」
ワイトの全身に痺れと痛みが走った。
「ワイト様…? 意識がお戻りになられたのですね!」
聞き慣れた声が聞こえる。その声は、紛れもなく従者であるロイだった。
ロイは、ワイトが6歳の時からの召使いだ。年はワイトと変わらず14歳の少年で、琥珀色の大きな目とオレンジ色の目立つ髪が特徴的である。
「ロイ……ロイなのか?」
ワイトが安心したような声で言う。
「はい。本当に良かったです……」
ロイの本当に嬉しそうな声が聞こえる。だがワイトはいくつか疑問に思った。
「おいロイ。父上と母上は何処におる?」
 気になっていた疑問をロイにぶつける。
「こ、国王とお妃様ですか?」
ロイが発した声は酷く恐怖で震えていて、ワイトはそんなロイの様子を不審に思った。
「どうしたのだ?」
 不安になるワイト。ロイは震える唇をゆっくりと開いた。
「申し訳ありません。じ、実は……」
ロイの口から語られた事。それは、あまりにも酷な現実だった。
「ワイト様と国王陛下とお妃様は馬車に乗ってお城に帰る途中に、事故に巻き込まれてしまいました。他の馬車との正面衝突。生存者は皆無に等しい状況でしたが、奇跡的にワイト様と国王陛下は一命を取り留められました。しかし、お妃様はお亡くなりになられました」
ロイは小さく震えながら言った。ワイトには事故が起こった時の記憶が無いらしい。
「そうか、母上は死んだのか……」
ワイトは目を伏せる。ロイは悔しまぎれに拳を握り締め、ワイトにおずおずと尋ねた。
「ワイト様、目はお見えになられますか?」
ロイが不安そうに問うた。
「見えぬ……」
ワイトは今にも消え入りそうな声でささやく。ロイは悲しそうな顔になり、こう言った。
「申し上げにくいことなのですが、ワイト様の目はもう一生見える事はないのです……」
 ロイは今にも泣き出しそうな顔でワイトに言った。
「だから私はロイの顔が見えぬのか……。ふ、これでは涙を流す事もできぬな」
 ワイトは自嘲じみた笑いを浮かべる。ロイは口を開くことすらできなかった。
「ロイ……。傍に、傍にいてくれぬか?」
ワイトは天井を見上げながら静かにロイに言った。ロイはとても悲しい顔をして、ワイトにこう言った。
「もちろんです、ワイト様。……もうお休みになられてください。ワイト様のお身体はまだ安静にしておかなければならないと、医者が申しておりました」
心配そうにワイトへ言葉をつむぐロイ。それを聞いたワイトは静かに頷き、「そうだな。先に寝るとしよう」と言った。
「おやすみなさいませ」
ロイはワイトへ毛布をかけ直すと、ワイトが寝ているベッドの横にある椅子に座った。「ああ、おやすみ」とワイトは言うと、静かに眠りに堕ちていった……。


 見渡す限り一面の闇。人はおろか、物すら何も無いという不思議な世界。ワイトはそのような光景を目の当たりにしていた。目が無い彼女にとって、頭に流れるイメージと言ったところだろう。
「……これは夢なのか?」
彼女自身よくわからなかった。これは夢か、それとも現実か。はたまた実体の無い幻想か、それとも根拠の無い超常現象か。
「貴様、ここで何をしている?」
 ワイトの後ろから聞こえた声。彼女は驚き動揺したがすぐに冷静になり、ゆっくりと後ろを振り向いた。そこに立っていた人物、それを見たワイトは声が出ない程の恐怖を感じた。
「……っあ」
 かすれた声にならない声をあげるワイト。彼女の目の前に立っている人物の顔は酷く蒼白で目は血のような色をしており、真っ黒な翼が背中から生えている。奇妙に歪められたその口からは一筋の真紅の液体が垂れている。まるでその姿は西洋の悪魔を思わせる姿であった。
「何だ、俺を見て恐怖で身体が硬直したか?」
 ワイトの目の前にいる人物が唇を歪めてあざ笑う。彼女は恐怖をしながらも平静を装いこう言った。
「別に硬直などはしておらん。私の名はワイト・ダージン・イクスだ。お前は誰であり、何者なのだ?」
 落ち着いた様子で言うワイト。目が無いのに目の前の悪魔のような人物が見えることをさほど彼女は気にしなかった。
「俺の名は……、ラークとでも言っておこう」
 意味深い言葉を放つラークという人物。それから彼はこう言葉を続けた。
「そして俺は悪魔だ。だからラークというのは仮の名にすぎない」
 ワイトは驚愕した。この世界に悪魔などという非科学的なモノなどあるわけが無い、それが彼女の自論であったからだ。
「悪魔? ……そのようなモノがこの世にいたとは」
 その言葉を聞いたラークは自嘲じみた笑いを浮かべる。まるでその顔は悪魔などいくらでもいる、とでも言っているようだった。
「貴様、ワイト・ダージン・イクスと言ったか。間違いないな?」
ラークが確認するようにワイトに問う。彼女は少し不審な顔をしたが、こくりと頷いた。
「俺は悪魔だ、と言ったな。俺は貴様を見込んで契約を持ってきた」
作品名:x.eyes 作家名:獄寺百花@ついったん