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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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飛んで魔導士ルーファス

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「アタシを誘惑しようとしてもムダだよ。アタシのダーリンはルーちゃんだけだもん!」
 なんて深い愛の絆。一方的な。
 ルーファスは必死になってビビを引き離そうとしていた。
「だからちょっと意見の相違があるだけで、この子とだってさっきはじめて会ったわけだし」
「電撃結婚かっ!」
 クラウスが声をあげた。完全に話はそっち方向で進んでいる。
 否定しようとルーファスが口を開こうとしたとき、掴まれていた腕が折れそうになる圧力が加わった。横ではビビが笑顔でルーファスを見つめている。
 ここは無理やり笑っとくしかなかった。
「あはは、ビビったら人前でそんなにくっつくなよ、あはは〜(う、腕が粉砕する)」
「あはは、だっていつもダーリンの傍にいつもいたいんだもん(逃げたら地獄の果てまで追いかけるからね)」
 結婚する前からすでに仮面夫婦。
 一見してラブラブな二人を見て、クラウスは身を引くことにした。
「二人の邪魔をして悪かった。僕はもう行くことにするよ。ルーファスまた明日学校でな」
 背中を向けて歩き出したクラウスが、不意にグッと後ろから引っ張られた。
 クラウスの服を掴んでいたのはルーファスだった。
「積もる話もあるしウチ寄ってお茶でも飲んで行ってよ(頼みの綱はクラウスだけだ、ここでビビと二人になったら……確実に殺される)」
 ルーファスの思惑とは反対に、ビビはさっさとクラウスに消えてほしかった。
「今日は二人で夜空を見ようねって約束したじゃ〜ん」
 そんな約束した覚えなどないが、ここはうまく切り返さなければいけない。
「まだ星ひとつ見えないよ。それまでの間、クラウスといてもいいじゃないか?(お願いだからクラウス帰らないで)」
「えぇ〜っ、アタシはダーリンと二人でいたいのぉ(アタシと徹底的にやりあう気?)」
「クラウスは幼いころからの知り合いだから、ビビのことを知って欲しいんだよ(クラウス察して!)」
「やだやだ、アタシはダーリンと二人っきりがいいのぉ(早く帰ってくれないかなぁ)」
 どっちも譲る気がないらしいので、判断はクラウスに任された。
 ルーファスとビビの視線がクラウスに注がれる。
「やっぱり僕は行くことにするよ」
 ビビ(女の子)の意見が優先された。
 行ってしまおうとするクラウスを泣きそうな顔を見つめるルーファス。アイコンタクトで助けを求めるがうまくいかない。
 こうなったら腕を1本粉砕される覚悟で叫ぶしかない。
「助けてクラウス!」
 ついにルーファスが叫んだ。次の瞬間、ボキボキという音が木霊した。
 声も出せずに口を開けて死相を浮かべるルーファスを見て、なんだか雰囲気が変だということにクラウスが気づいた。
「どうしたルーファス!」
「た……助けて……この悪魔に……殺される……」
 痛がるルーファスの横ではビビが笑顔ですっ呆けている。
 だが、もう可愛い仔悪魔の仮面にクラウスが騙されることはなかった。
「今すぐルーファスを離せ!(やっぱりルーファスに婚約者だなんて話が変だと思ったんだ)」
 クラウスは封印されていた鞘から聖剣ウィルオウィプスを抜いた。
 切っ先を向けられたビビは涙ぐんでクラウスを見つめる。
「こんな可愛い女の子に剣を向けるなんてヒドイ……本当にアタシを斬れるの?」
「いや、斬れない」
 あっさりクラウスは聖剣を鞘に戻してしまった。
 どんな事情があろうとクラウスは女性に攻撃ができない。それはルーファスにもわかっていたことだった。
 激しくルーファス形勢不利!
 頼みの綱のクラウスは女性に手をあげられないし、ルーファス本人は人質のままだ。
 交渉の基本は話し合いから。クラウスは状況を整理することにした。
「いったいビビちゃんは何者で、どうしてこんな状況になったんだ?」
「……カップラーメン……」
 その言葉を残してルーファスは力尽きた。何も知らない人にしてみれば、暗号以外の何物でもない言葉だ。
 力尽きたというか、防御本能が働いて現実逃避したルーファスをビビが抱きかかえた。
「ダーリンしっかりして!」
 その慌て方はさっきまで腕を粉砕させようとしていたとは思えない。マジでルーファスのことを心配しているようだった。
 ビビの姿を見てクラウスはさらに困惑した。
 数分前、ルーファスはクラウスに助けの言葉を発して、さらに『悪魔に殺される』とまで言った。
 それがどーしたことか、意識を離脱させたルーファスの心配をするビビの姿。
「ダーリン死なないで!」
 悲痛な絶叫が木霊した。
 そして、奇跡が起こった。
 なんとルーファスが目を覚ましたのだ。
「(……なんか怖い夢を見た)……あっ」
 ルーファスは自分の顔を覗き込んでいる仔悪魔と目が合ってしまった。
 そして――。
「(もう一度、気を失おう)」
 ガクっとルーファスは気を失ったフリをした。
 そこでビビちゃんの平手打ちが炸裂!
「気を失ってるフリしてんじゃないのっ!」
 ちょっぴり怪力の仔悪魔にぶん殴られて、ルーファスはぶっ飛んだ。
 弾丸のようにぶっ飛んだ先に立っていたのはクラウス。
 クラウスは全身でルーファスを受け止めナイスキャッチ!
 結果的にルーファスはビビの拘束から逃げられたりしていた。
 もしかして形勢逆転!?
 すぐにルーファスはクラウスの背後に隠れた。
「クラウス助けて、この悪魔に無理やり契約書にサインさせられたんだ!」
「悪魔の契約書の効力は絶対だ……ルーファス諦めろ」
 と、軽い感じてクラウスはルーファスの肩を叩いた。
「ヤダよ、だってこのままじゃ結婚させられるんだから!(結婚は墓場とかいうけど、本当に墓場入りしかねない)」
「別にいいじゃないかルーファス、こんな可愛い子と結婚できるなんて幸せ者だぞ」
「じゃあクラウスがビビと結婚すればいいじゃないか!」
「僕はこう見えても一国の王だからね、結婚する人は慎重に選ばなきゃいけないんだ」
 ビビを押し付け合う二人。そんな扱いを受けてビビはちょっとプンプンだった。
「ちょっとぉ、ちょー可愛いアタシを取り合うならわかるけど、なにその譲り合うみたいな感じ」
 そして、ビビは悪魔の契約書を取り出して言葉を続ける。
「でもこの契約書がある限り、ダーリンはアタシのものだもんね!」
 蘇る恐怖の記憶。ルーファスはクラウスの背中に隠れて震えた。
 結婚するのも嫌だ。でも契約を破れば酷い目に遭う。
 契約書から発せられる禍々しい気をクラウスも感じていた。
「あの契約書……(並みの力じゃない)。見た目は可愛い仔悪魔だが、上級悪魔だな?」
「わっかるぅ? うんうん、きっとあなた出世するよ!」
 ちょっと嬉しそうにモジモジするビビ。褒められるのに弱いらしい。
 ルーファスはクラウスの背中越しに、疑いの眼差しでビビを見ていた。
「本当に上級悪魔なの? だってカップラーメンから出てきたよ」
 そうそう、なんでカップラーメンの中に入っていたのだろうか?
「アタシの可愛さを見てよ、どうみたって上級じゃん? カップラーメンに入ってたのは、閉じ込められてたっていうか、まぁ……(やっぱりヒミツにしておこ)」