飛んで魔導士ルーファス
ルーちゃんはホウキの柄を使って相手を剣ごと押し飛ばしたところで回し蹴りを放つ。その回し蹴りを躱したマルコの顔面にすぐさまホウキのモッサモッサした部分が襲い掛かる。だが、マルコはついにホウキの柄を叩き斬ったのだ!
ホウキを斬られたルーちゃんに剛剣が振り下ろされる。
カーン!
鳴り響く金属音。空気がないから音がしないなんていう無粋なことは言わないで、魔法よ魔法。
ルーちゃんが相手の攻撃を受け止めたアイテムは魔法のフライパンだった。
「あ〜ははははっ、フライパンで加熱してメインディッシュに喰ってくれる!」
「戯言を抜かすな、俺の方こそ貴様を喰らってくれるわ!」
「ピコ・ファイア!」
フライパンに炎系魔法を宿して、次の攻撃に移ろうとしたルーちゃんの身体に突然異変が起きた。
「う、うう……」
胸を押さえてうずくまるルーちゃんはそのまま地面に膝をついてしまった。この時こそチャンスとマルコが剣を振り下ろすと思いきや、マルコは気高い武人であった。
「大丈夫か小僧、どうしたのだ?」
「胸が……この感覚は……覚えがあるぞ……ローゼンクロイツだな!」
ビシッとバシッとシャキッとルーちゃんが指差すと、ぜんぜん違う方向から声が帰って来た。ええ、眼が悪いですから。
「……ルーちゃんこっちだよ(ふあふあ)」
ルーちゃんが指差した方向とは見当違いのところで、ローゼンクロイツがワラ人形に杭を打ち込んでいた。ルーちゃん古典ギャグありがとう。
だが、どうして今更ローゼンクロイツが?
ルーちゃんは胸を押さえながらローゼンクロイツに手を伸ばした。
「なぜローゼンクロイツが……わたしのことあきらめたのではなかったのか?」
「ブッコロスゾ、テメェ!」
ピエール呪縛クンは今日も口が悪い。
そして、今になってラクダに乗って追いかけて来たモリー登場。
「万が一のことも考えて、その空色は妾たちの仲間になるように術をかけておったのじゃ」
うはっ、清ました顔してやること汚い。
主人は汚いが、マルコは苦しむルーちゃんに付き添っている。代わりにビビが戦闘に立った!
ビビはどこからともなく大鎌を取り出し、ブンブン振り回しながらローゼンクロイツに襲い掛かった。だが、ローゼンクロイツは意外に運動神経が良いので軽く避けて、ついでにビビのおでこにデコピン!
パシッ!
おでこにクリーンヒットを喰らったビビは痛みのあまり倒れこみ、地面の上をゴロゴロ転がり回った。その時ルーちゃんは見た。
「あ、くまだ!」
揺れ動くビビのスカートの隙間から、こちらを覗いて笑っているくまさんを確認したのだ。
身体の芯から力の湧いてきたルーちゃんは信じられないスピードで走り、ローゼンクロイツからワラ人形セット一式を奪い取ることに成功した!
あからさまに『しまった!』という表情を作るローゼンクロイツ。
「そ、そんな!?(ふにゃ)」
このセリフもワザとくさい。
そして、ローゼンクロイツは再びポケットからワラ人形セット一式を取り出した。ちなみにこのワラ人形の名前はジョニー呪縛クン。
「何個持ってるんだよ!」
ルーファスは再びワラ人形を奪い取った。
が、ワラ人形はもう1つだったの!
その名もワラ人形マイケル呪縛クンだ!
「だから何個持ってるんだよ!」
ルーファスはローゼンクロイツの後頭部をド突いてワラ人形を奪った。
すると、さらなるワラ人形がっ!!
「いい加減にしろ!」&「いい加減にして!」
ルーファス&ビビが揃ってローゼンクロイツをド突いた。
そして、またまたワラ人形を取り出そうとしたとき――ピタッとローゼンクロイツの動きが止まった。
腐れ縁のルーちゃんは直感的にイヤな予感がした。
「来るぞ!」
「……はくしゅん!(にゃ!)」
ローゼンクロイツが大きなクシャミを1発。
ルーちゃんが叫ぶ。
「〈猫還り〉が発動した、逃げるぞ!(マズイぞ、こんなときに発動するなんて)」
いったいルーちゃんは何をそんなに焦っているのか?
ローゼンクロイツに変化が起こっていた。
頭からぴょんと出るネコミミ、お尻からぴょんと生えた尻尾、それはまさに猫系獣人の姿だった。
万物全てをあざ笑うかのごとく、ローゼンクロイツが口元を歪めた。
「にゃー!!」
ローゼンクロイツが鳴き叫んだ瞬間、そこら中にネコの人形が溢れ返った。
これぞトランス状態のローゼンクロイツの必殺技『ねこしゃん大行進』だ!
実はこのねこしゃんたちは爆弾だったりする。
縦横無尽に走り回るねこしゃん同士がぶつかって、ドーンと綺麗な花火を咲かせます!
ぶっちゃけ、巻き込まれたらタダじゃ済みません!
魔導バリア張ったモリーが目を剥いた。
「何事じゃ!」
見てのとおりの大惨事です。
次から次へと爆発が起こり、月のクレーターが増えていく。
ビビに襲い掛かるねこしゃん!
マルコが走る!
「ビビ様!」
だが、間に合わない!
ルーちゃんがビビを抱きかかえて爆発に巻き込まれた。
「ダーリン!」
爆発に巻き込まれながらもルーちゃんは身を犠牲にしてビビを守った。
地面に横たわったルーちゃんは身動きひとつせず、服はボロボロで、顔も煤で真っ黒だ。
ビビは傍らに膝をついてルーちゃんの体を揺すった。
「ダーリンしっかりして、死なないでよ!」
返事はなかった。
「ダーリン!!」
「う……ううん……ここは?」
「よかったダーリン♪」
「いったい……なにが?」
ルーちゃんの巨乳がへっこんでる――つまり、ルーファスだ!
グルグル眼鏡をかけたルーファスは辺りの状況を確認した。で、見なかったことにした。
そこら中で大爆発の花火が咲き乱れていた。
「ローゼンクロイツの〈猫還り〉か……放置して逃げるのが1番だね♪」
ニッコリ笑顔でルーファスは言った。
モリーとマルコは魔導バリアで必死に爆発を耐えていたが、そろそろ限界に達しようとしていた。
モリーがルーファスに顔を向けて叫ぶ。
「あの獣人をどうにかするのじゃ。さすればビビとのこと認めてやろうではないか!」
ビビは拳を胸の前で握ってルーファスに向かって笑顔炸裂。
「ダーリンファイト♪」
「ムリだよ!」
だが、ここでやらなきゃ男じゃない!
足をガクガクさせながらルーファスは奮い立った。
マルコも戦闘態勢に入っていた。
「俺がサポートする、その隙に奴を止めろ!」
「止めろって言われてもやり方が……(とりえず、あの頭から生えてるアンテナを抜いてみようかな)」
ルーファスが悩んでいると、すでにマルコはねこしゃんに向かって走っていた。
ねこしゃんの気が囮に取られている間にルーファスは走った。
「クイック!」
運動能力を上げ、一気にローゼンクロイツまで駆け抜ける。
つもりだったが、いきなり爆発に巻き込まれた。
ドーン!
ぶっ飛んだルーファスの眼下に見えるローゼンクロイツの後頭部。
このまま落ちれば行ける!
ルーファスがアンテナを掴んだ!!
「やった!」
そのままルーファスは覆いかぶさるようにローゼンクロイツを押し倒した。
ぶちゅ〜っ♪
全てを見ていた全員が凍りつく。
男×男の危険な情事発動!
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)