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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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飛んで魔導士ルーファス

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 鼻血はマルコの顔に掛かり、運がいいことに視界を奪った。
 眼眩ましを喰らったマルコが壁に……ゴン!
 強く頭を打ったマルコは足取りをユラユラさせながら、眼はかなり真っ赤に充血して怒りを露にしていた。
「もう許さん!」
 最初から許してもらえる気がしませんでした。
 今度こそ鋭い牙をルーファスを噛み殺そうとした、その時だった!
「止めるのじゃマルコ!」
 廊下に凛と響いたモリーの声。
 マルコの牙はルーファスの服に食い込み、あと一歩のところで肉まで食い千切られるところだった。痩せてるから、肉なんてないけどね!
 ゆっくりと立ち上がるルーファスにモリーが手を差し伸べた。
「妾の宮殿ではなく、他のところでマルコと決闘するがよい」
「……へっ?」
 モリーの手を掴もうとしていたルーファスの手が思わず止まる。
「妾はそちとマルコが戦うことに同意しよう」
「……はぁ?」
 つまり、マルコがルーファスに襲い掛かろうとしたのを止めたのは、屋敷の中で暴れられるの嫌だったから。ごもっともな理由ですな……あはは。
 最初からタダでビビを取り返そうとは思ってないけど、もっと平和的に解決したいルーファス。
「ちょ、私は別に戦いたいわけではなくて、もっと話し合いとかで解決できないかなぁ。みたいな甘い考えできたんだけど……」
 が、そんな話なんて誰も聞いていなかった。
 モリーがなにやらボソボソと唱えた次の瞬間、あらビックリ、ルーファスは月の表面に立っていた。
 なんてこったい!!

《4》


 殺風景な月の上。
 あるものと言ったら大小のクレーターとか、あとは星が綺麗とか、あとは……思いつかない。
 月の上に立つルーファスと対峙する黒狼マルコ。そして、それを見守るモリー。なんだか状況がこんがらがってきちゃったよぉ〜!
 ――もつれ合う運命の糸。
 なんてカッコイイ言い方で誤魔化してみる!
 とにかくヤルっきゃないと思ったルーファスは魔法のホウキを構えてみる。
 構えてみる。構えてみる。構えてみる。
「次はどうしたらいいんだよぉ!(僕はもっと平和的な解決をしたいんだけど)」
 泣き叫ぶルーファス。ルーちゃんじゃないルーファスは弱かった。ルーちゃんが攻なら、ルーファスは防。
 よっし、逃げとけ!
 魔法のホウキに跨ったルーファスは月の上を逃走。
 ルーファスの後ろを追う黒狼マルコ。黒狼の姿こそがマルコの真の姿であり、この姿の時のこそマルコは真の力を発揮する。
 マルコの前足の付け根あたりが盛り上がり、肉の中から白い翼が皮を突き破って生えたではないか。次に尾が蛇のように鱗の覆われたものに変わり、その動きはまるで鞭のようだった。
 これこそが神魔大戦のときに神々たちを大いに苦しめた魔獣マルコシアスの姿。
 天に舞い上がったマルコは降下しながらルーファスに狙いを定めて必殺技――〈炎のつらら〉を放った。
 マルコの羽根から炎の槍がルーファスを襲う。この必殺技は一撃で約4000?を火の海にできるというのだが、宇宙空間は空気がないから威力激減。ちなみに〈炎のつらら〉をマルコに与えたのは可学者ベルであり、ベルがマルコに不思議な薬を飲ませたことにより、能力を開花させたのだ。
 ルーファスは上空から降り注いでくる〈炎のつらら〉を魔法のホウキを右へ左へさせながら避けつつ、シルクハットの中に入っていた紙切れを取り出して音読した。
「――これを読んでる頃はきっと苦戦して死にそうになってるに違いない。そこで、そんなルーファスのために取って置きの秘密兵器を今なら特別特価の1万ラウルで売ってやろうではないか。……売るのかよ!」
 ルーファスは役立たずの紙切れを投げ捨てて、再びシルクハットの中に手を突っ込んで何かを取り出した。
「呼ばれて飛び出てチャチャチャチャ〜ン!」
 ルーファスがシルクハットから取り出したのは、なんとビビだった!
 出て来るなりいきなりビビはルーファスの身体に抱きついた。
「ダーリン!」
「うわぁっ、止めろ、運転中だし!(落ちる落ちるー!)」
 酔っ払い運転とでも表現すべきか、魔法のホウキが右へ左へ動き回る。それを上から狙っているマルコにしてみれば、狙いが定まらなくていい迷惑だ。
 って、これってラッキー?
 だがしかし!
 みなさん、酔っ払い運転はよくありません――だって事故るから。
 ルーファスとビビを乗せた魔法のホウキが突然落下しはじめる。
 そして、ドーン!
 と、地面に衝突。飲酒してなかったのに事故った。原因は別にあったのだ。
 今日の格言――2人乗りは危ないからいけません!
 地面落下したルーファスの上には当然のようにビビが抱きついて乗っている。
「ダーリン大丈夫?」
「う……うう……ふっはははは、あ〜ははははっ!」
 ま、まさか……?
 抱きついていたビビの身体に伝わるやわらかな膨らみ。自分より遥かに大きい胸、胸、爆乳!
「ダーリンもしかして……?」
「あ〜ははははっ、大魔王準備中ルーファス様光臨!」
 グルグル眼鏡を外し、ビビを抱きかかえて立ち上がったルーちゃんは、ホウキを構えてマルコを待ち構えた。
 降下して来たマルコは地上に降り立ったところでヒト型に戻り、ビビの瞳を見据えながらゆっくりと歩み寄ってきた。
「ビビ様、その小僧からお離れください」
「ヤダよぉ〜だ!」
「ビビ様!」
「アタシはやっぱりダーリンと一緒になるんだもん。ねえダーリン?」
 ビビに上目遣いで同意を求められたルーちゃんは、あっさりきっぱりさっぱり首を横に振った。
「いいや。ルーファス♂はどうか知らんが、わたしはおまえのことなど数多くいる愛人のひとりとしか見てないぞ」
「がぼ〜ん!」
 ビビちゃん大ショック!
 でも、ビビちゃんは負けません。
「それでもアタシはダーリンに尽くすからいいよ」
 こんな一生懸命のビビの腕をマルコが掴んだ。
「帰りましょうビビ様」
「イヤ!」
 嫌がるビビの腕を引いたのはルーちゃんだった。
「ビビはわたしの女だ」
「……ダーリン」
 好きなひとの胸に抱かれトキメキモードでルーちゃんの横顔を見つめるビビ。でも、次の一言でゲンナリ。
「数多くのひとりのな」
「がぼ〜ん!」
 ちょっぴりときめいたビビがバカだった。ルーちゃん相手じゃビビは特別な存在になり得ないのだ。ではルーファスでは?
 ビビの腕から手を放したマルコが剣を抜いた。
「やはりこの小僧を殺さねばならないようだな」
「望むところだ男女!」
 ルーちゃんはビビの身体を背中に押し込めて魔法のホウキを構えた。
 自分を賭けて戦いをはじめようとしてる二人を見て、ビビはちょっぴり胸弾ませてみたり。
「ダーリン頑張って!」
 ルーファスが防ならルーちゃんは攻!
 地面を蹴り上げたルーちゃんが普段のルーファスからは考えられないスピードでマルコに襲い掛かる!
 大剣とホウキの柄が交じり合う。そして、それを挟み睨み合う二人の視線に炎が灯る
ひとりは君主の愛娘を取り戻すため、もうひとりは売られた喧嘩を買っただけ。動機はどうあれ戦いは白熱していた。