飛んで魔導士ルーファス
「違うもん、ダーリンのことなんてとっくに忘れたもん。だってダーリンが悪いんだよ、ダーリンが……(帰れだなんて言うんだもん)」
声を沈ませながらもビビはフォークをお肉にグサッと突き立てた。気持ちが不安定だった。
ナイフをお肉の上でブルブルさせてるビビ見て、心配そうにマルコは深いため息をついた。
「ビビ様、金属のお皿が破損してしまいます、ナイフを上げてください。それと、あの小僧をダーリンと呼ぶのはお止めください、未練が乗っているように聞こえます。あと、ビビ様はレディーなのですから、足を開かずにお座りください。それから――」
「うるさい、もぉいいよ! マルコもママも嫌い」
声を荒げて立ち上がったビビは部屋を出て行く寸前に振り返って叫んだ。
「マルコだって女っぽくないじゃん、ば〜か、ば〜か、ば〜か!」
マルコ的大ショック!
精神的ダメージを受けてうずくまるマルコを尻目にビビは部屋を駆け出した。
ビビは嫌になるくらい長い廊下を抜けて自分の部屋のドアを開けた瞬間にフリーズ!
自分のベッドで女性が男性の上に乗っている。その光景を目の当たりにしたビビは硬直した。そして、強張った顔をした男性の方とビビの目が合って、その男性が爽やかに軽く手を振る。
「や、やあ、ビビ……久しぶり」
「ダ、ダーリンのばか!」
ビビのベッドの上にいたのはルーファスと……女性だと思ったらローゼンクロイツでした♪
男同士の危険な情事に鉢合わせてしまった。
でも、ルーファスにも言い分はある。
この状況を説明すると、亜空間ベクトルの出口がビビの部屋のベッドの上で、最初に月の道を通ったルーファスがベッドにドンと落ちて、次にルーファスの上にローゼンクロイツがドンと落ちたわけで、決して昼間から、あ〜んなことやこ〜んなことをしようとしていたわけでない……と思う。
猛ダッシュしたビビはルーファスの上に乗るローゼンクロイツを強引に掴みかかって引き剥がした。
「ダーリンを誘惑するなんて悪魔!」
悪魔に悪魔って言われるなんて……まあ言葉の綾だけどね。
投げ飛ばされたローゼンクロイツはホコリを払いながら立ち上がって、相手をこばかにしたような笑いを浮かべる。
「……恋にライバルは付き物(ふっ)」
「ぐわっ、まだダーリンを寝取るつもりなのぉ!?」
女(?)の熱いバトルがはじまりそうな中、ひとりだけついていけないルーファス。ルーファスはポカンと口を開けるしかなかった。しかも、次のローゼンクロイツの発言でルーファスの顎はガボ〜ンって外れた。
「……嘘(ふっ)」
嘘かよっ!
……てゆーか、どこが嘘だよ。どの辺りが嘘だよ。なにに対してが嘘なんだよ!
「ボクはもともと男女の色恋沙汰になんて興味ないよ(ふっ)」
そして、最後に不適に笑うローゼンクロイツ。何を考えているかは不明。きっと、ローゼンクロイツの心の内を知っているのは、仲良しのワラ人形ピエール呪縛クンくらいだと思う――本人だしね!
ベッドの上にちょこんと座ってアゴをガボ〜ンとさせているルーファスの横にビビがちょこんと座った。ビビの丸くて愛くるしい瞳がルーファスの顔を映し出す。
「何しに来たのダーリン? もしかしてアタシを迎えに来てくれたとか?」
「そんなわけないでしょ、ちょっとコンビニ行こうとしたら道に迷ったってか、なんていうか……」
嘘ヘタすぎ!
普通の人間が迷って来れる距離でもないし、言葉に詰まったらすぐに嘘だってバレるジャン!
ウキウキ気分のビビがルーファスの腕に絡み付いていると、ビビのようすを見に来たマルコが部屋に入って来た。
「ビビ様、食事を途中で抜け出すなどモリー様も……こ、小僧!?(なぜこいつらがここにいる!)」
刹那に抜かれるマルコの剣。
反射的にルーファスは身構えて、へっぴり腰で戦闘モード。
だが、ルーファスの姿はシルクハットに魔法のホウキにビーチサンダル。ビーチサンダルってところがカッコ悪い。
剣を構えたマルコから殺気がモンモンと漲っている。ルーファスが少しでも変なマネをしたら殺されるに違いない。すでに格好が変だけどな!
あと変なところと言えば、例えばルーファスにビビが抱きついてるとかね。
こ、殺されるぅ〜!
「小僧、ビビ様をどうするつもりだ!」
「どうもなにも、私はただの通りすがりで……(死ぬのか、死ぬのか僕は)」
「嘘をつくな! ビビ様を無理やり連れ去る気なのであろう!(やはりあの場で斬っておくべきだった)」
状況的にルーファスは殺られること確実。しかもビビから追い討ち。
「きゃ〜っダーリンに連れ去られるぅ!」
ウキウキドキドキにはしゃぐニコニコ顔の緊迫感ゼロのビビが、きゃぴきゃぴしながらルーファスの腕に抱きつく。これを見たマルコは怒り頂点マックス!
「おのれ、おのれ、おのれ! ビビ様をたぶらかすとは許せん!」
疾風のごとく駆けるマルコの一刀がルーファスを襲い、魔法のホウキでルーファスは剣を受けた?
木製のハズのホウキがマルコの剛剣を受け止めたのだ。さっすが魔法のホウキ……だから?
思わぬことにマルコは目を丸くして驚いた。
「たかがホウキで我が一刀を受け止めるとは……」
「マジ死ぬかと思った。ベル姐さんありがとう!」
あの時はマジで邪魔だと思ったホウキだったが、今は拳を握り締めてベル姐さんに感謝感激!
柄を握り直したマルコの一刀が煌き、ルーファスは紙一重で避けた――秘儀海老反り!
瞬時に作戦を考えるルーファス。
そして、閃き煌き、レッツトライ!
魔法のホウキに跨ったルーファスは逃げた。そう、彼は逃げた。敵前逃亡。逃げるが勝ち!
「ダーリン!」
自分の背中に向かって誰かの声がしたが、ルーファスは逃げる。
ホウキに乗って部屋を出たルーファスの後ろを黒狼に変化したマルコが口から炎を吐きながら追ってくる。――ちょっぴり逃げ切れそうもないかも。
冷や汗タラタラのルーファスは、藁にもすがる思いでシルクハットに手を突っ込んだ。
シルクハットと言えば、中から何かが飛び出すのお約束だ!
まずルーファスが取り出したのは――白いハト!
平和の象徴ですね、これでマルコと和解が……。
「できるかっ!!」
さてさて、次に取り出したのは――万国旗!
世界各国の国旗が結ばれたアイテムですね、この国旗のように手と手を結んで和解……。
「役に立つかっ!!」
えーっと、次にルーファスが取り出したのは――まきびし!
やっとそれらしいアイテムの登場です。
忍者が追ってから逃げる時に使うというアイテムまきびし。
ルーファスは地面にばら撒いた。
トゲトゲの金属のまきびしを踏んだ敵が『あいたーっ!』って言ってくれるアイテムなのだが、マルコは廊下をひとっ飛び。軽々とまきびしを避けた。
次のアイテムをルーファスが取り出そうとした時に、目の前に廊下の突き当たりが――つまり壁。
ホウキは急には止まれない♪
ドン!
「うがっ!」
壁に激突したルーファスが床の上でヘバる。
さらにそこへ牙を剥いたマルコが襲い掛かろうとしていた、その時だった!
鼻血ブー!!
壁に顔面を打ちつけた衝撃で、時間差でルーファスは鼻血を噴出させた。
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)