飛んで魔導士ルーファス
「変わりに出てよ(めんどくさいから)」
「僕を誰だと思ってるんだよ(これでもこの国の王様なんだけどな)」
「わかってるよ、クラウスはクラウスだよ」
「はぁ、わかったよ(これだからルーファスが好きなんだけどな)」
キッチンを出て行ったと思ったクラウスがすぐに帰って来たので、ルーファスは少しきょとんとした。
「誰だったの?」
キッチンに入って来たクラウスに続いて、ブロンド美女が入って来た。
「私だ」
クラウスのあとに入って来たのはエルザだった。
エルザの姿を確認したルーファスはカップラーメンを食べる手を止めた。
「なんでエルザがうちに?」
「カーシャ先生からルーファスがビビを助けに行くと聞いて駆けつけたのだ」
「はぁ? カーシャにここ数日会ってないし、ビビを助けに行くって、僕が?」
「そうだ、私はそう聞いたので駆けつけたのだ」
「だからなんで駆けつける必要があるだよ」
「これを届けに来た」
エルザはポケットからお守りを取り出して、ルーファスの手のひらに乗せた。そのお守りをまじまじ見て考えるルーファス。
そして、ルーファスは書いてる文字を大声で読んだ。
「恋愛成就ってなに!?」
恋愛成就のお守り……生徒会長グッドジョブ!
ルーファスはカップラーメンを口の中に一気に食い、スープを一滴残らず飲み干してテーブルの上にバンッと置いた。
と、同時の勝手口のドアがバンッと蹴破られた。
一同の視線が勝手口に向けられるのは、まあ当然。
「ふふふ、皆のもの待たせたな」
誰も待ってなかったけどカーシャ登場。
ドアの修理代は出してくれるのでしょうか?
カーシャは土足のまま台所に上がり込むと、勝手に湯飲みを出して自分でお茶を入れ、寛いだようすでテーブルに着いた。あまりにも手馴れたようすなのが気になる。そう言えば、前にもルーファス宅のキッチンで寛いでいたような……常習犯!?
お茶を一口飲んだカーシャは真剣な顔をしてルーファスを見つめた。
「行くぞ」
「はぁ!?」
ルーファスは意味もわからずカーシャの顔を見つめるだけだった。最近ルーファスの口癖が『はぁ』になりつつある。理解の範疇を超えたことが多すぎるのだ。
もう一度カーシャが同じ言葉を発する。
「行くぞ」
「いつ(When)?」
「今すぐにだ」
「誰が(Who)?」
「おまえだ」
「何で(What)?」
「ビビを助けにだ」
「なぜ(Why)?」
「それは自分の胸に訊きけ」
「どのようにして(How)?」
ルーファス&カーシャのQ&A。最後の質問に答えたのはエルザだった。
「この家の上空に飛龍を待たせてあるので心配するな」
そして、最後にルーファスが叫ぶ。
「なんてこったい!(Oh my God!)」
キッチンに響いたルーファスの声はご近所さんまで響き渡った。
ルーファスの頭の上に?なんてこったい妖精?が飛び回ってしばらく一同沈黙。
短いようで長いような時間が流れ去った後、ルーファスがテーブルを両手で叩きながら立ち上がった。
「行けばいいんんでしょ、行くよ、行きますよ、行きゃいいんだろコンチキショー!」
なんだか逆ギレ。
決意を固めた……ような感じのルーファスの腕をカーシャが掴んだ。
「じゃあ、行くぞ(青春だ!)」
魔法のホウキを手にとってカーシャと一緒に勝手口から出て行くルーファスの背中に、まずエルザが声をかけた。
「幸運を祈る」
次にクラウス。
「パーティーの手配でもするかな」
ルーファスはニッコリ笑って戦いに向かった。
《2》
勝手口を出てすぐにルーファスは自宅上空で待機する飛龍を発見。住宅街には降りて来られないらしく、屋根ギリギリのところで待機している。どーやって乗るんだよ!
ルーファスは呆然と飛龍が旋回しているのを見ていた。
「(少し目が回ってきたなぁ)」
なんて思っていたルーファスにカーシャが背中を向けながら声をかけた。
「妾の背中に乗せてやるから乗れ」
「意味不明」
「飛ぶぞ」
「飛ぶ?(ジェットホウキもなしにですか?)」
「おまえは黙って妾の言うことだけ聞いておればよい」
「拒否権は?」
「ない」
カーシャが?ない?と言ったらこの世には存在しない。国王だろうと神様だろうと、YESマンになるしかない。もちろん、ルーファスは二度三度とうなずいて否応なしにカーシャの背中に乗って担がれた。そしたら飛んだ。
どこからか鳴るジェット音。それはカーシャのブーツの底から鳴り響いていた。そして、カーシャの靴底から火が噴出して空を飛んだ。これなら飛龍まで楽々だね……エヘッ。
「カーシャ、跳んでる、飛んでる、トンデル!?」
最後の『トンデル』は、『この人頭イカレてる』の意味。
ルーファスを乗せたカーシャは空をひとっ飛びして軽々と飛龍の中に乗り込んだ。
「この魔導具、ベルに試験運転を頼まれていたのだ」
嗚咽して吐きそうになっているルーファスのスーパーの袋が手渡された。
「へっぽこクン、吐くんだったらこの中にね(ふあふあ)」
「ああ、ありがとーってローゼンクロイツ?」
「ナンダコンチキショー!」
そこにいたのはローゼンクロイツ&ワラ人形ピエール呪縛クンペアだった。
ルーファスがローゼンクロイツに何かを質問しようとすると、ローゼンクロイツの手がルーファスの口を塞いだ。
「なんでここにいるかなんて無粋な質問はなしだよ(ふにふに)。それと吐くんだったら、その袋か上空垂れ流しでお願い(ふにふに)。ボクのおすすめは上空垂れ流しだよ(ふあふあ)」
「垂れ流さないよ。それとどうしても質問させて、なんでいるの?」
「ボクも行くからに決まってるのに……へっぽこクンはやっぱりおばかさんだなぁ(ふっ)」
「別にバカとかじゃないと思うんだけど」
「じゃあ……アホ(ふっ)」
小ばかにした笑いを浮かべてローゼンクロイツはすぐに無表情に戻った。
いつもどーりのローゼンクロイツの反応。
が、いつものローゼンクロイツと違うところがあった!
触れないほうがいいかなと思いつつ、やっぱりルーファスは質問することにした。
「あのさぁ、ずっと気になってたんだけど……頭に生えてるのなに?」
「にゃ?(ふにゅ)」
可愛らしい反応をしたローゼンクロイツの頭には、なんか触覚みたいのが生えていた。
ぴょんと出た1本の触覚に、ピンポン玉くらいの黄色い球がついてる感じ。そんな物体がローゼンクロイツの頭から生えていた。
ルーファスが触ろうとすると、ピシッと叩かれた。
「ボクの髪に触らないでよ(にゃー!)」
「いや、髪じゃなくてさ……その触覚みたいなの何?」
「触覚?(にゃ?)」
「だから、頭に生えてる触覚っていうか、アンテナみたいなの何?」
「ボクからは見えないよ?(ふにゅ)」
それは頭の上に生えているからです。
カガミでもあればいいのだが、誰も持ち合わせていなかった。
結局、その話題は解決しないまま流れてしまった。
地上を見ていたカーシャが2人に声をかける。
「もうすぐ着くぞ」
飛龍は徐々に降下し、なんだか見覚えのある学校のグラウンドに着陸した。
3人はすぐに飛龍から降りて、ルーファスは見覚えのある某○○学院を見回した。
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)