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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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飛んで魔導士ルーファス

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 フライパンで人質を脅す犯人と緊迫感ゼロの人質。滑稽すぎる……。でも、マルコには効果覿面で切っ先を地面に向けながら身動きを止めた。
「ビビ様を人質に捕るとは卑怯者め!」
「あ〜ははははっ、なんとでも言え。戦いは最後に立っていた者が勝者なのだ!」
「きゃ〜っ! ダーリンカッコE!」
「は〜ははははっ、これで勝ったも同然。さっさと武器を捨てて降参しろ!」
「くっ」
 唇を噛み締めたマルコ仕方なく剣を地面に放り投げた。すると次の瞬間、ルーちゃんはビビを突き飛ばして武器を持たないマルコに対して卑劣なまでに襲い掛かった。
「は〜ははははっ、覚悟!」
「甘いな小僧!」
 マルコは地面に向かってジャンプして転がり剣を拾い上げた。しかし、ルーちゃんの方が一足早く、剣を振るおうとして胸に隙のできたマルコにフライパンが炸裂!
 胸当て越しに強烈な一撃を受けたマルコは地面に転がり、苦痛に悶えながら胸を激しく押さえた。そのマルコ痛がり方が尋常でなかったためにルーちゃんは思わずフライパンを投げ捨てて駆け寄った。
「大丈夫か? そんなに強烈だったか、今の一撃?」
「うぅ……」
 苦しむマルコを見てルーちゃんは焦りに焦ってマルコの胸当てを急いで外した。血も出てないし傷も見当たらない、ただそこには?胸?があった。そう、結構豊満なバスト!
「おまえ女だったのか!? どーりで尋常じゃない痛がり方をするはずだ」
 なるほど納得。
 地面に横になって倒れているマルコの姿を見て、ルーちゃんの頭に名案が浮かぶ!
「そーだ、こういう時は人工呼吸だ!」
 なんのためらいもなくマルコに口付け目的で人工呼吸をしようとするルーちゃん。それに気が付いたマルコが近くに落ちていた硬い胸当てスコーン!
 胸当てで頭を強打するルーちゃんは2メールとほどぶっ飛んで地面に激突。すぐにビビが駆け寄って膝枕をする。
「しっかりしてダーリン!」
 涙を流してルーちゃんを抱きしめるビビの前にマルコが立ちはだかった。
「ビビ様、お退きください。最後の止めを刺します」
 剣を構えたマルコがルーちゃんを一思いに殺そうとした時、清閑な声が場に響いた。
「止めるのじゃマルコ! その者を殺してはならぬ」
 この声を発したのはいつの間にか意識を取り戻してカーシャと楽しく団らんしていたモリーだった。しかも手にはお茶と、口にはようかんを入れて若干モグモグしている。
 切っ先を地面に下ろしマルコはモリーに訴えた。
「どうして止めるのですか!? この者を殺さなければビビ様は……」
「事情は全てわかっておる。じゃがな、無闇な殺生は許さぬぞ」
 事情は全てわかっておる……ってことは、もしや気絶は演技だったのかっ!?
 主人が殺すなと言ったら殺すことは叶わない。主人に死ねと言われたらマルコは自ら自害する。モリーの言葉はマルコにとって絶対であるのだ。ナイス忠誠心!
 刀を鞘に納めたマルコはその場に胡坐をかいて座り込んだ。もう、何もすることはない。
 気絶するルーちゃんにカーシャがどっかから持ってきたバケツで水をぶっ掛けた。すると、ルーちゃんがゆっくりと目を覚ました。
「ううん……よく寝た。ってどこ!?」
 ルーちゃんはルーファスに戻ったらしく、状況理解ができていない。
 キョロキョロ辺りを見回して脳ミソフル稼働のルーファスにビビが力いっぱい抱きつく。
「よかったダーリン!」
「よかったじゃなくて誰か状況説明してよ(そこにいるのどこの誰!?)」
 道端にちゃぶ台で置いて団らんする2人と、地面にあぐらをかいている武人風の巨乳のお姐さん。ルーファスには理解不能なシチエーションだった。
 ようかんを食べ終えたモリーが重い腰を上げた。
「マルコ帰るぞよ、もちろんビビもじゃ」
「アタシもぉ〜!」
 モリーの言葉にビビは顔を膨らませて不満満々だが、マルコは一気に元気を取り戻した。
「ビビ様、今すぐ俺たちと帰りましょう」
 差し伸べられたマルコの手をビビは引っ叩いて振り払った。
「ヤダヤダヤダ、アタシはダーリンと一緒に暮らすんだもん!」
「ビビ様! ワガママを申さずに俺たちと帰るのです」
 マルコがビビの腕を引っ張り、ビビがルーファスの身体に抱きついた。
 ルーファスは片手を上げて質問で〜す。
「なんか全体的に説明してくれるかな?」
「妾が説明してやろう」
 急に立ち上がったカーシャが口をモグモグさせながらマルコに手を向けた。
「まず、この人がマルコシアス侯爵。愛称はマルコちゃんで、妾のいい実験台だ」
 つぎにカーシャはモリーに手を向けた。
「次にこのつはグレモリー。愛称モリーで、好きな物は金銀財宝。そして、驚かないで聞けよ。な、なんとこの人がビビの母上なのだ!(まあ、養女だがな)」
 説明された内容をルーファスは頭の中で整理整頓。まず、巨乳のお姐さんがマルコで、アラビアンな衣装を着てる方がビビの母親。
 そして、ルーファスは時間差で驚いた。
「ビビの母親!?」
 驚くルーファスの肩にカーシャが手をポンと置いてしみじみ語りはじめる。
「実はな、ビビは家出少女だったのだ。それで母親のモリーが遥々遠くの国からビビを迎えに来たのだ。つまりビビはモリーと一緒に帰らなきゃいけないのだ、わかるな?」
「そう……か、帰るんだ家に……」
 素っ気なく言うルーファスにビビは涙を浮かべながら抱きついた。
「アタシ帰らないよ、ダーリンと一緒にいるんだもん」
 マルコがビビを強引に引き離し、ルーファスに手を伸ばすビビの身体をちょー強引に引きずる。
「人間のことなど忘れて帰るのですビビ様!」
「ヤダよ、帰りたくないって言ってるでしょ」
 マルコに引きずられるビビの腕をモリーも掴んだ。
「帰るのじゃビビ!」
「ヤダヤダ、帰りたくない。ダーリンだってアタシが帰ってらヤダよね?」
 空を仰いだルーファスはゆっくりと顔を下ろし、泣きじゃくるビビの顔をしっかりと見て言った。
「自分の家があるならさっさと帰りなよ、私は君に付きまとわれてただけなんだから……(これで……いいんだよね)」
「…………」
 ビビの涙が急に止まり何も言わなくなった。
 モリーとマルコに連れられ小さくなって行くビビ。そして、歯を食いしばっていたビビが力いっぱい叫んだ。
「ダーリンのばかっ!」
 異界のゲートが開かれ、ビビたちの姿は完全に消えた。
「……楽しかったよ、ビビ」
 ルーファスは空を見上げて口を強く結んだ。