飛んで魔導士ルーファス
「そこの二人組み止まれ!(ビビつらから青春の香りがするぞ、ふふっ)」
この声を聞いたルーちゃんも後ろを振り向く。
「なぜカーシャがここにいる。もう朝のホームルームはじまってるだろう!」
カーシャから逃げるのは得策でないと考えてルーちゃんは足を止めた。
すぐ横にカーシャもジェットホウキを止めた。
「ルーちゃんとエルザ、白昼堂々学校サボってデートか?(根性なしのルーファスだったら絶対にしない暴挙だな)」
「そうだ」
ルーちゃんは否定するでもなく認めた。だが、すぐにエルザが否定する。
「ウソだ、デートはずあるか。そんなことよりも、カーシャ先生がなんでこんなところに?(校外パトロールというわけもなさそうだが)」
「よくぞ聞いてくれた。学校なんてそんなくだらない場所に行ってるヒマじゃないのだ。この街にある女が来たという情報を仕入れて探してるところなのだ」
ある女と聞いてルーちゃんの頭にある女性の姿が浮かぶ。
「カーシャが探している女とは、鎧を着た変な男を連れたアラビアンな感じの女か?」
「それだ、なんでルーちゃんがモリーのこと知ってるのだ?」
「さっき会ったぞ。なんだかビビを探しているとかでな」
「しまった、やはりビビを探しておったのか。ルーちゃん、さっさとモリーと会った場所まで案内しろ」
「はぁ?」
カーシャはいつも強引です。逆らってムダです。さっさと従った方が身のためです。でないと身の保証ができません。
ルーちゃんはエルザを地面に下ろした。
「わたしはこれからベルとともに行く。おまえはもう1人でも歩けるだろう」
「最初から1人で歩けると言っただろう」
「聞いてない」
ルーちゃんはきっぱりと言ってカーシャのジェットホウキに2人乗りした。
エンジンを吹かせてカーシャがエルザに手を振る。
「さらばだ、ルーちゃんを借りていくぞ」
「ちょっと待てカーシャ先生!」
エルザの言葉も空しくジェットホウキは走り出した。
ルーちゃんもエルザに手を振る。
「さらばだエルザ!」
背中の後ろで小さくなっていくエルザの姿を見ながら、ルーちゃんはカーシャに声をかけた。
「あのモリーとかいう女は何者なんだ?」
「妾のダチの悪魔で元は月の女神。モリーというのは愛称で、グレモリーと名前で通っておるが、本名はレヴェナと云う。争い嫌いと自分では言っているが、本当は清ました顔して性根が腐ってる女だ」
「性根が腐ってるようには見えなかったが?」
「あの女は何千年も昔のことをネチネチと掘り返すような女なのだ。された嫌がらせは絶対に忘れないし、お金を借りたが最後、酷い目に遭う(まるでファウストのような奴だな)」
過去の回想に浸るカーシャ。モリーにだいぶ痛い目を見せられたと思われる。
物思いに耽って若干事故りそうなカーシャにもう1つルーちゃんから質問。
「モリーの傍に仕えていた男は何者だ?」
「あれはマルコシアス侯爵、モリーの獰猛な番犬だな。近くにモリーがいる時はそうでもないが、野放しにすると手に負えん。それにマルコは――」
「前見て運転しろ!」
何かを言おうとしていたカーシャの言葉をルーちゃんの叫びが掻き消した。
前方にそびえ立つ時計台!
「壊すぞ」
「はぁ!?」
カーシャに集まるマナの力。
「メギ・メテオ!」
どっからから飛来してきた隕石が時計台を撃破!!
舞い上がった砂煙の中をジェットホウキは抜け、咳き込みながらルーちゃんが叫んだ。「あんたアホかっ!」
「超高速で時計台に衝突したら妾たちが死ぬであろう」
「壊さずに避けろ!」
王都アステアでテロ、時計台が何者かによって破壊される。なんてニュースがこの日のトップニュースを飾ることになりそうだ。
そんな事件を起こしつつ、住宅街の路地にジェットホウキを止めたカーシャは、辺りの空気をクンクン犬のように嗅ぎはじめた。
「微かにモリーの香水の臭いがするな(この臭いを嗅ぐだけで腹が立つ)」
「あんたは犬か!」
「では、そういうことで案内ごくろうだった。あとは妾ひとりで行く」
「ちょっと待て、わたしも行く」
「なぜだ?」
「やつらはビビを探していたからな」
スタスタっと歩いてきたカーシャが、ルーちゃんの両手をぎゅっと胸の前で掴んで瞳をキラキラさせた。
「青春だな!」
「意味がわからんぞ」
「よい、早くホウキの後ろに乗れ!」
「感謝するぞカーシャ、わたしが世界の覇者になった暁にはどっかの国をくれてやる。あ〜ははははっ!」
「笑ってないで早く乗れ、置いていくぞ」
「あ、ああ」
頭をポリポリと掻いたルーちゃんがジェットホウキの後ろに乗ると、カーシャが勢いよくエンジンを鳴らした。
「しっかり掴ま……れ?(なんだ、なにか来るぞ!?)」
カーシャとルーちゃんの視線が道の向こう側からこっちにやって来る――飛んで来る少女の姿を捉えた。
魔法のホウキに跨って道路を低空飛行していたのはビビだった。その後ろをラクダから毛並みの美しい黒狼に乗り換えたモリー公爵が追っていた。
「ダーリン!」
キィィィィィッ!
急ブレーキをかけた魔法のホウキは急には止まれない♪
「ダ、ダーリン、ぐわぁっ!」
ルーちゃんたちの横を通り過ぎたビビはキラリーンと星になり、その後ろを黒狼に乗ったモリーが追って行った。
唖然とするルーちゃんをよそに、カーシャはちまたで有名な胸の谷間から、絶対大きさ的に入るはずのないバズーカ砲を取り出して構えた。
ズドォ〜ン!
バズーカ砲から出たのは巨大なマジックハンド。
マジックハンドはものすっごい勢いでモリーの身体を掴み取って、そのままカーシャのもとまで引きずって来た。
主人を奪われた黒狼は怒りに眼を紅くして、地面を激しく蹴り上げて道を引き返してくる。そして、モリーを拘束した張本人カーシャに鋭い牙を向けて飛び掛かろうとした。
だが、それをマジックハンドに掴まれているモリーが止めた。
「止めよマルコ、カーシャに牙を剥くでないぞ!」
カーシャの眼前に迫った黒狼は空を激しく噛み切って牙を閉じた。そして、低く喉を鳴らしながらカーシャを睨付け辺りを歩き回った。
自分の周りを歩き回る黒狼から目を放さないようにして、カーシャはモリーをマジックハンドから解放した。
「モリー、早くこの子を大人しくさせてくれないか?(あの眼、機会があれば妾を殺す気だぞ)」
モリーは殺気立っている黒狼の毛並みを優しく撫でた。すると、黒狼の身体に変化が起こり徐々にヒト型に変化していく。そして、そこに武人マルコの姿が現れた。
そして、魔法のホウキを手に持ってビビが逆走してきた。
「ダーリン助けて!」
戻ってきたビビはすぐにルーちゃんの後ろに隠れ、嫌そうな顔をしてモリーの顔を覗き見た。
ルーちゃんはビビとモリーに挟まれて、かな〜り困惑。
「おいビビ、わたしを盾にするな。それと、誰か状況説明をしろ!」
「ダーリン殺っちゃって!」
「だから状況説明をしろと言ってるだろう」
ルーちゃんの言葉を受けてここぞとばかりにカーシャが一歩前に出た。
「ここは妾に任せろ」
そう言ってカーシャが胸の谷間から取り出したのはちゃぶ台。カーシャは団らんするつもりだった。
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)