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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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飛んで魔導士ルーファス

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「逃げるなんてとんでもない。ちょっとトイレに行こうと思っただけだよ」
「トイレなんていいから契約書にサインしてよ」
 ここでサインしなかったら、首が宙を飛んじゃうことになりそうだ。
「わかったから、まずはこの鎌を退かしてくれないかな?」
「逃げたら地獄の果てまで追いかけるよ?」
「逃げないから、大丈夫だから(スキがあったら逃げるけど)」
「仕方ないぁ」
 大鎌が退かされ、やっとルーファスは死の恐怖から解放された。
 ほっと溜息を洩らすルーファス。
「ふぅ、とりあえずお茶でも飲んでゆっくり話し合おうよ(その間になにか打開策を考えなきゃ)」
「お茶菓子はないの、お茶菓子?(ショートケーキがいいなぁ)」
「(……物言いがどっかの誰かさん似てる)」
 知り合いの魔女の顔を思い浮かべながら、ルーファスは黙々と紅茶をいれて茶菓子も用意した。
 テーブルに座るビビの前に出されたのは、某ネコ型ロボットも大好きだというドラ焼きだった。
 それを見たビビは目を丸くする。
「なにこの未確認飛行物体みたいな固形物は?(こんな食べ物はじめてみたかもぉ)」
「うちの学校の先生が東方のおみやげだってくれたんだ。名前はたしか……ドラ焼き?」
「美味しいの?」
「美味しいよ(僕はまだ食べたことないけど)」
 こんなドラ焼きがあることすら忘れていて、賞味期限がちょっぴり切れていたりした。
 ちなみに、ビビに毒味をさせようとしているわけでなく、もともとルーファスは賞味期限が切れても平気で食べちゃう人だったりする。
 しばらくドラ焼きを観察していたビビだったが、ついに手にとって口を大きく開けてパクッ。
 その瞬間、口に広がる香ばしく甘い小豆の食感。
「美味しい!」
「(美味しいんだ。早く食べちゃえばよかったなぁ)」
「ねぇ、もっとないの?」
「ないよ。1個しかくれなかったんだ(まあ偶然職員室に用があって、たまたま貰えただけだし)」
「えぇ〜っ、これはラアマレ・ア・カピスに勝るとも劣らない美味しさだよ。こんな小さいの1個で満足しろって言われても無理だよぉ!」
 ラアマレ・ア・カピスとは通称ピンクボムと呼ばれ、かなりの高級品で食べると脳みそが爆発するほどの美味しさの果物だ。
 ここでビビの頭の上で豆電球がピカーンと光った。
「そうだ、契約の代償はドラ焼き100個にしてあげる!」
 ナイスなアイディアにビビちゃん自信満々。再び契約書を出してテーブルにバーンと叩きつけた。
 魂を代償にされるよりはよっぽどマシだが……。
 ルーファスには疑問があった。
「ところで契約したら何してくれるの?」
「それは契約してからのお楽しみ♪」
「…………(あからさまに怪しい契約だ)」
 怪しい契約書にサインして、借金の連帯保証人にされるかもしれない。
 でも、ここでサインしなかったら……。
 ルーファスはビビが手に持ってる物を見て怯えた。
「なんで包丁なんか持ってるの!?(やっぱり殺される?!)」
「ほら、契約書にサインするとき血が必要でしょ。だからこれで指を詰めて、ねっ?」
 笑顔で怖いことを言うビビ。しかも指を詰めるって言葉の使い方が間違っている。
 無邪気に笑いながらビビは包丁をブンブン振り回している。ルーファスはすぐそこに迫る命の危機を感じた。
「契約書にサインします。けどさ、血じゃなくてボールペンじゃダメかな、赤インクにするから?」
「別にいいよん、血は雰囲気の問題だし」
 雰囲気かよっ!
 ルーファスの目の前にある契約書。古代語で書かれていて、あんまりよく意味が理解できない。言語関係の授業があんまり得意じゃなかったりするルーファス。
 ボールペンを握ったまま固まるルーファス。
「ええっと、どこにサインすればいいのかな?」
 サインする場所がわからなかったりした。
「ココ、ココ、この下のとこに名前書いて」
 なんて教えてもらいながら、ついにルーファスは契約書にサインをしたのだった。
「よし、書けた」
「じゃあ、名前教えて」
「ルーファスだけど?」
「ふ〜ん、ルーちゃんか。じゃあ、こっち顔向けて」
 言われるままにルーファスが顔を向けた瞬間、チュッ♪
 唇と唇が重なり、蕩けるようなドラ焼き味のキッス。
 目をパチクリさせてルーファスの瞳孔は限界まで開かれた。
 ビビの顔が離れても、ルーファスの脳ミソはどこかに飛んだままだった。
 一方ビビは紅茶を飲んで何事もなかったような振る舞い。
 だんだんと現実に還って来たルーファスは、自分の身に起きたことを理解しはじめた。
「ちょっと整理しよう。僕はドラ焼きを食べたのか? いや、違う。……接吻……接吻したでしょ、接吻したよね!」
「接吻って、なにそのカビの生えたような言い方。別に減るもんじゃないし、こんな美少女とチューできるなんてラッキーじゃん?」
「物理的に減らなくても精神的に減るでしょ!」
 異常なまでにショックを受けるルーファス。
 しかも、興奮したせいか、ルーファスの鼻からツーっと赤い液体が……。
 冷めきった目でビビは紅茶を飲み続けている。
「(また鼻血出してるし……ダサッ)ファーストキスってわけじゃないんでしょ。なにそんなに取り乱してるのぉ?」
「ファ、ファーストじゃないよ!」
「その慌て方……もしかしてファーストだったの!?」
「ち、違うよ! 3回……いや2回……」
 サバ読もうとした?
 熱くなった頭を冷やすため、ルーファスは何を思ったのか水道の蛇口から冷水を出して、なんと頭からそれを被った。あふぉだ。
 ルーファスは長髪だからそりゃもうビショビショ。結わいてる髪をほどいたら、落ち武者ヘアーになりそうだ。
 冷水を浴び続けているルーファスの背中に、ビビはポンと手のひらを乗せた。
「落ち込まないでダーリン♪」
「はぁ?」
 ダーリンという言葉の意味をルーファスは一生懸命考えた。
 でも、正しい答えが出ても否定。
 ルーファスは濡れた髪をかき上げながら、急に真顔になってビビを見つめた。
「今さ、ダーリンって言ったよね?」
「ルーちゃんはウチのダーリンだっちゃ♪」
「なにその某鬼娘のパクりみたいな……」
「だってコレにサインしたじゃん?」
 コレが再びルーファスの眼前に突き付けられた。そこにはしっかり直筆でルーファスの名前が書かれている。
 CPUの処理能力を超えた出来事に、ルーファスは強制終了した。
 そして、再起動で立ち直り。
「はぁ!?」
 っと、びっくりこいた。
 ルーファスの目の前を泳ぐ古代文字の羅列。
「読めないし、なんて書いてるんデスカ?」
「ああ、これね。婚約書だけど?」
「はぁ!?」
 っと、またびっくりこいた。
 結婚は地獄なんて例えはあるけど、ルーファスがサインしたのは、なんと婚約書だったのだ。
 サギだ!
「そうだよ、サギじゃないかっ!」
「サギだなんてひっど〜い、アタシたちあんなに愛しあったのにぃ」
「いつどこで!?」
「あんな蕩けるような甘いキッスをした仲じゃん?」
 ドラ焼き味の。
「私は認めないからね。クーリングオフだクーリングオフ!」
「返品は認められません。だってもう使用済みだも〜ん」
「使用済みってなに使用済みって!」