飛んで魔導士ルーファス
第5話_アゲクの果て
《1》
いつもの朝、いつもの光景、いつものように学院に登校。
遅刻しそうで走っているルーファスと、その横を魔法のホウキでラクラク快適なビビの姿。これがいつもの登校風景だった。
ビビの存在はご近所さんでも有名で、いろんな人から可愛がられている。ご近所のアイドル的存在といった感じだ。
今日はいつもよりも遅刻気味で、なんか間に合わない雰囲気が醸し出されている。
必死に馬車の停留所まで向かうルーファス。
その途中、最新型のサイボーグ馬の馬車がルーファスの横で停車した。
「乗っていくかいルーファス?」
馬車の中から声をかけたのはクラウスだった。
「助かったよクラウス!」
「ビビちゃんも乗っていくだろう?」
「アタシは別にいいもん。自分のホウキがあるもん」
なんだかビビはスネているようだった。
ルーファスを乗せた馬車が走りはじめ、しばらくしてクラウスがコッソリ耳打ちをしてきた。
「ルーファス、ビビちゃんと何かあったのかい?」
「私が彼女のホウキに乗らないから怒ってるんだよ」
「乗ってあげればいいじゃないか」
「ヤダよ、女の子と二人乗りなんて恥ずかしいじゃないか」
今日も遅刻しそうだったルーファス。ホウキに乗れば余裕で遅刻しないで済むのだが、断固拒否したルーファス。そんなこんなでビビは怒っているのだ。
気づくとビビは馬車と並行して走り、中にいるルーファスとクラウスの様子を伺っていた。
クラウスは小窓を開けてビビに尋ねる。
「ビビちゃんも乗るかい?」
「別に……乗りたくなんだから!」
「僕のほうからお願いしてるのさ、ビビちゃんに乗って欲しいと(こういう言い方だったら平気かな)」
「いーや、楽しそうな2人の邪魔しちゃ悪いもん!(いいもん、別にいいもんね!)」
「いや、邪魔だなんて……(ダメか、まだまだだな僕の交渉術も)」
「クラウスなんか大キライ!!」
「なっ……」
まさかの言葉にクラウスは大ダメージを受けた。
まさか、まさかレディに嫌われるなんて、クラウスの人生であってはならないことだった。
真っ白に燃え尽きてクラウスは魂の抜け殻になった。
真横にいたルーファスが焦る。
「だいじょぶクラウス!」
「…………」
返事がない、ただの燃えカスのようだ。
ルーファスは馬車の外にいるビビを怒鳴りつけた。
「ビビ、クラウスに謝りなよ!」
「なんでアタシが謝んなきゃいけないわけ?」
「なんでじゃないでしょ、なんでじゃ!」
「なんでデスカー?」
あきらかな挑発でルーファスのこめかみがピキッとキタ。
「ちょっと馬車止めてもらえますか?」
ルーファスはそう言って馬車を止めてもらい下車した。
馬車はクラウスを乗せて走り去っていく。
ビビもホウキを降りて地面に立って、面と向かってルーファスを睨んだ。
「なに、アタシとヤル気?(ダーリンだって容赦しないんだからね!)」
「あのさ、なんでそんなに怒ってるの?」
ルーファスのほうがちょっと大人の対応だった。
「別に怒ってないしー」
「それあからさまに怒ってるでしょ。ねえ、ちゃんと言ってくれないとわからないでしょ。不満があるならさ、ちゃんと口に出して言ってよ」
「だって……(ダーリンとクラウスの2人で楽しそうに登校しちゃってさ、なんかアタシのこと除け者扱いだしー)」
単純に嫉妬だった。
ビビはクチビルを尖らせてそっぽを向いてしまった。
その態度にルーファスは嫌気が差した。
「ビビの気持ちはよくわかった。もうビビのことなんて知らないよ!」
ぜんぜんよくわかってません!
ルーファスはビビを置いて歩き出してしまった。
「待ってよダーリン!」
呼び止めてもルーファスは耳を貸さずに歩いて行ってしまった。
「ダーリンのバカ! アタシは……ダーリンと2人っきりで学校に行きたいだけなの!」
ルーファスがピタリと足を止めて、クルッと振り返って口を開いた。
「ワガママばっかり言ってるとみんなから嫌われるよ」
冷淡にルーファスは言い切った。
みんな=ルーファスも含む
ビビちゃんショック!!
言葉の暴力でかなりの痛手を負って、ビビは胸を抑えて地面にしゃがみこんだ。
「ショック……(ダーリンに本気で嫌われちゃった)」
でも、ちゃんとルーファスはすぐそばに居て、ビビにやさしく手を差し伸べていた。
「ほら、ちゃんと立って」
「ありがとダーリン(やっぱりダーリンはアタシのこと見捨てないんだ)」
「あとでちゃんとクラウスに謝るんだよ」
「なんでアタシが? えっ、なんかしたっけ?」
「…………(もうダメだ)」
「あれ、黙っちゃってどうしたのぉ?(アタシなんか言った?)」
「ホントどうしようもないね、もう知らない!」
ルーファスは怒って走り出した。
置いていかれたビビは目を白黒させてしまっている。
「え、あ、えぇ!?(どういうこと!?)」
呆然と立ち尽くすビビを置いてルーファスは小さくなって行く。
ビビはすぐに魔法のホウキに乗って猛スピードで追いかけた。
「待ってよダーリン!」
あっ、走っていたルーファスがコケた。
ビビは止まろうとしたが、全速力で飛んでいたホウキは時速300キロ。
「ダーリン……ダーッ!!」
ルーファスを通り越して、ビビは遥か彼方へキラリーンと星になった。つまり、ブレーキが効かなかったということ。
姿の見えなくなったビビへルーファスから一言。
「……アホだ」
そうだ、早くしないと遅刻する!
ルーファスが走り出そうとすると、近くの家から夫婦喧嘩をする物音が聞こえて来た。
「離婚よ離婚!」
「おう離婚でもなんでもしてやるよ!」
喧嘩するほど仲が良いなんて言うけど、実際のところはどうなんだろうか?
ルーファスは小さく息を吐いて今度こそ走り出そうとした。が、夫婦喧嘩をする家の中からフライパンが窓ガラスを破って飛んできた。
「あぶなっ!」
紙一重でフライパンを避けたルーファス。次に包丁も飛んできたが、それも避ける。だが、もう一つ放物線を描いて飛んでくる物体にルーファスは気づいてない。
ゴン!
やかんがルーファスの脳天直撃。しかも中身が入っていたのでかなり痛い。
しかも熱湯が入っていたりしてね!!
「イタツ!!」
叫びながらルーファスはバタンと倒れた。
脳天クリティカルヒットで気を失ってしまった。
地面に倒れるルーファスの横を、鎧を着た黒髪の武人と、月の砂漠を連想させるラクダに乗った中東風の衣装を着た妖女が通りかかった。ラクダに乗った美女はあんまり見かけない光景だ。
「マルコ、歩みを止めよ」
気高い声でラクダに乗ったが妖女が命令すると、武人が機械のようにピタッと足を止めた。
「なんでございましょうかモリー様」
「そこで行き倒れておる子供を助けてやるがよい」
「畏まりました」
主人に頭を下げた武人は地面に倒れているルーファスの脈を取り息を確かめると、軽くルーファスの頬を叩いて目を覚まさせようとした。
「しっかりするのだ小僧」
「う……ううん……」
ゆっくりと目を覚ましたルーファスは目の前の顔を見てビビる。
「わっ!? 誰だおまえ!」
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)