飛んで魔導士ルーファス
「弱い者にも全力で戦わないと失礼だろう(ふにふに)」
「ぜんぜん失礼じゃありませーん!(もぉ、なんかムカツク!)」
今までしゃべっていたビビが突然立ち上がってローゼンクロイツに攻撃を仕掛けた。
大鎌を横に大きく振りながらビビが叫ぶ。
「油断大敵、これアタシの座右の銘……あっ!?」
顔面直撃脳天炸裂するはずだった大鎌は、ローゼンクロイツの素早い手刀によって柄を叩き割られてしまった。ローゼンクロイツ実は肉弾戦強い?
空かさずローゼンクロイツの無表情チョップがビビの脳天に炸裂!
「いたーい! もぉさっきからやられっぱなしだよ」
「愛のチカラは偉大だね(ふにふに)。ボクがルーファスを想うチカラは誰にも負けないよ(ふあふあ)」
「ダーリンのことを世界で1番想ってるのはアタシですぅ〜!」
「ボク(ふに)」
「アタシ!」
「タワシ(ふっ)」
「ふざけてるの?」
「ぅん(ふっ)」
最高の笑みでローゼンクロイツはうなずいた。この子の性格よくわからん。
二人がもうすぐキスしちゃますよくらいの距離に互いの顔を近づけて対峙していると、横たわるルーファスの近くで声がした。
「大丈夫かルーファス、しっかりしろ!」
ルーファスをしゃがみ込んで膝で抱きかかえるエルザの姿がビビとローゼンクロイツの目に入った。恋のライバル出現!
エルザがルーファスの身体を強く揺さぶる。
「しっかりしろ、目を覚ますのだ!」
ルーファスは返事一つせず、目を覚ますことはなかった。
微かに鼻で笑ったエルザがルーファスを丁重に床に寝かせて立ち上がった。
「誰がルーファスをこんな目に遭わせたのだ、名乗り出るがよい!」
ビビがローゼンクロイツを指差した。
「ローゼンクロイツが呪でやった」
鋭い眼差しで愛はローゼンクロイツを睨み付けた。
「本当か、ローゼンクロイツ?」
「ま、まさか!?(ふにゃ!?)ボクが……やったよ(ふっ)」
にこやかに笑うローゼンクロイツ。それを見たエルザは鞘からゆっくりと刀を抜いた。
「よくも、ローゼンクロイツとて私のルーファスをこんな目に遭わせると許してはおけぬ!」
切っ先をローゼンクロイツに向けるエルザにビビからツッコミ。
「……私の? いつからダーリンがアンタのもんになったのよ!」
剃刀のように鋭いツッコミにエルザはたじろぎながら顔を赤くした。
「い、いや、それはだな……そうなったらよいという過程の話であって……」
「ダーリンのこと好きってことでしょ? あーっもぉ、やっぱりエルザはダーリンのこと狙ってたんじゃん。二人揃ってダーリンのこと狙って、ダーリンはアタシだけを見てればいいの!」
ローゼンクロイツに向けられていた刀の切っ先がビビに向けられた。
「それは自分勝手というものではないのか? ルーファスが貴様だけを見てればいいなど自分勝手極まりない。伴侶を選ぶのはルーファスだ!」
「ルーファスクンはボクの所有物(ふにふに)」
誰もが一歩も引かない状況。女の戦いって怖いなあ……。ひとりオトコの子が混ざってるけど。
一触即発で睨み合う3人。そのトライアングルの中心に沈んでいるのはルーファス。彼は未だに気を失ったまま。というか、今は起きない方が幸せかも?
横たわるルーファスにビビが駆け寄る。
「こうなったらダーリンに決着つけてもらおうよ。ねえ、ダーリン起きて、起きてよ、起きてください、起きろって言ってんだろうが!」
ビビちゃんの力強い拳がルーファスの頬を抉った。これじゃあ起きるどころかよけいに気絶。もしくはご臨終。
乱暴なことをするビビを見かねてエルザがルーファスを奪おうとする。
「私が起こす!」
「ダーリンはアタシが起こすの!」
だが、ビビはルーファスを渡そうとせずにぎゅっと抱きしめる。それに負けじとエルザはルーファスの腕を引っ張る。そして、気づけばローゼンクロイツがもう一方の腕を掴んでいた。
「ボクが起こすのが確実だよ(ふにふに)」
2人の女性と1匹の両生類に奪い合いをされるんなんて、この幸せ者……でもなさそうだね。
引っ張られるルーファスの顔が悪夢でも見てるように苦痛に歪む。そして、ゆっくりと目を覚ました。
「ダーリン!」&「ルーファス!」&「へっぽこクン(ふっ)」
三人の声が重なり嬉しそうな顔をしているが、ルーファスの表情は微妙。この状況が把握できてないうえに、身体が引っ張られて痛い。
「痛いから離してくれないかな?(どうしてこんな状況に陥ってるわけ?)」
「ダーリンがアタシのこと好きって言ったら離してあげる」
「私のことを好きと言うのだルーファス!」
「ボクを好きって言わないと……呪うよ(ふっ)」
3人の言葉を聞いて蒼ざめるルーファス。だんだん状況が理解できてきたが、意味不明な展開なことにはかわりなかった。
エルザがググッとルーファスの腕を引く。
「私を好きと言えば一生遊んで暮らすことができるのだぞ!」
この時ばかりは金に物を言わせてルーファスを誘惑。
ローゼンクロイツがググッとルーファスの腕を引く。
「ボクを好きって言わないと……呪うよ(ふっ)」
やっぱりそれかい!
最後にビビが力いっぱいルーファスに抱きつく。
「アタシはダーリンに死ぬまで尽くすよ」
愛くるしい瞳でルーファスを見つめるビビ。
この状況を打破したいルーファスだが、3人に抱きつかれていては無理。しかも、運が悪いのか、神のイタズラか、この場に第4の女が現れた(正確には3)。
「ふむ、妾の見ていないところでウハウハだなルーファス(まさかルーファスがここまでやるとは、大人の階段の〜ぼるぅ)」
「断じてウハウハじゃないし。この状況をよく見てよ!」
泣き叫ぶルーファスに追い討ちをかけるように第5の女性現る。
室内の気温が一気に灼熱まで急上昇した。
「おほほほほほほほっ、見つけたわよぉ〜ん!!」
目がイッちゃてるベル登場。しかも武器が機関銃から、キャノン砲に替わってるし!
状況は最低最悪。
ルーファスに抱きつく3人が順番に声を発する。
「ルーファス!」
「へっぽこ(ふっ)」
「ダーリン!」
そして、その輪にベルも飛び込んだ。
「乱交パーティーならアタクシも混ぜなさぁ〜い!」
そんな光景を冷めた目で見つめる1人の女。
「ふむ、青春だな(ふふふっ)」
最後に泣き叫ぶルーファス。
「もういい加減にして、僕が好きなのは――」
ベルが持っていたキャノン砲が暴発した。
天井が崩落して、窓ガラスが大音響を立てて砕け散り、音楽室は大惨事なった。
そして、ルーファスの最後の声は完全に掻き消されたのだった。
ぶっ壊れる音楽室から一同は一目散に逃げた。そんな中で2人を振り切ったルーファスは1人だけ振り切れなかった。
「ダーリン、さっき誰の名前言ったのぉ?」
ビビに抱きつかれながらルーファスは走って逃げていた。
「知らないよ!」
「もぉ!」
ビビはニッコリと笑ってルーファスとともに深夜遅くの学院から逃げ出したとさ。
翌日、学院は大騒ぎになったことは言うまでもないが、騒ぎを起こした犯人は未だ見つかっておらず、どっかの大財閥の力でこの事件はすぐにもみ消されたらしい。
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)