飛んで魔導士ルーファス
「スキかキライかという問いに対しては、スキって答えるけれど(それが恋愛感情なのかと聞かれると……)」
「だったらボクら相思相愛じゃないか(ふあふあ)」
「それはきっとなんか意味が違う!」
どんどんと話がトンデモない方向へと転がりはじめている。
間近で見るローゼンクロイツはそこらの女子より、よっぽどよっぽどカワイイ。
が、しょせんはオトコの子。
そもそも小さいころから付き合いのあるルーファスは、もしもローゼンクロイツが生粋の女子だとしても、兄弟とか家族とかの感覚になってしまって、恋愛感情なんて銀河の彼方だった。
ローゼンクロイツの顔がどんどん迫って来て、どんどん追い込まれていくルーファス。彼の袖口はローゼンクロイツによってぎゅっと掴まれ、逃げようにも逃げられない。しかも、袖口を掴まれる力は強くなっていた。
ローゼンクロイツの顔がルーファスの顔に近づいた次の瞬間、危機感が頂点に達してルーファスは力いっぱいローゼンクロイツを突き飛ばした。
悲しそうなローゼンクロイツの瞳が覗き込む。
「やっぱりボクのことキライなんだね(ふぅ)」
「キライとかじゃなくて、超えてはいけない一線というものが男同士の友情にはあると思うんだよね」
「ボクのことキライなんだね(ふにふに)」
「そうじゃなくて、僕の話聞いてないでしょ?」
「わかったよ(ふにふに)。?愛情?を?愛憎?に変えるまでさ(ふーっ!)」
怖いほどの和やかな表情を浮かべるローゼンクロイツ。この瞬間、ルーファスはローゼンクロイツに呪い殺されるとマジで思った。
どこからともなくカナヅチとワラ人形を取り出したローゼンクロイツは、ワラ人形に向かって杭を打ちつけはじめた。よく見るとワラ人形に『ルーファス』と書かれているのは言うまでもない。
カーン!
カーン!
カーン!
ワラ人形に軽快なリズムで杭が打ち込まれる。
ルーファスは胸を押さえて床に膝をついた。即効性のある呪が襲い掛かったのだ。恐るべしローゼンクロイツ!
床に寝そべり死相を浮かべるルーファスがローゼンクロイツの足首に手をかけた。
「マジで僕を殺す気か……すぐにやめて!」
「これは愛情表現の変化形だよ(ふにふに)」
「変化しなくていいから……(本当に殺される)」
「変化の乏しい人生なんてつまらないよ(ふにふに)」
「なんか議題が変わってる受け答えだし!」
「それこそが変化さ(ふにふに)」
こんな状況でもからかわれてるのか、それとも本気の受け答えなのか。からかわれてる方に一票!
胸の痛みが激しくなって来て、ルーファスは死に物狂いでローゼンクロイツの身体をよじ登りはじめた。
ルーファスの手がローゼンクロイツのヒップにタッチ!
「ドコ触ッテンダ、コンチキショー!」
ピエール呪縛クンごとグーパンチ!
「ふ、不可抗力だよ!」
ルーファスの手はローゼンクロイツのヒップを鷲掴みしていた。しかも、苦しさのせいでかなり強く握ってる。まるでローゼンクロイツに抱きついて襲い掛かっていうような光景になってしまった。
こんな恥ずかしい光景を目の当たりにした何者かが叫び声をあげた。
「ダーリンのえっち!」
《4》
音楽室の扉を開けて突然入ってきたビビ。
顔は真っ赤に染まって、ルーファスのことを軽蔑した目で見ている。軽蔑されるのも無理がない。だって、ルーファスがローゼンクロイツに襲い掛かってる構図なんだもん。
「ダーリンのえっちえっちえっち、そんなに飢えてるならアタシに言ってくれればよかったのに、クラスメートを襲うなんてヘンタイだよ!」
慌ててローゼンクロイツから離れたルーファスはビビに駆け寄った。
「違うんだって、順番を追って説明するから……うっ!」
急に胸を押さえて倒れこむルーファス。ビビは突然のことに目を白黒させた。そして、微笑むローゼンクロイツはワラ人形に杭を打ちつけていた。
「ルーファスはすでにボクのモノさ(ふっ)」
「ダーリンがローゼンクロイツのモノに!?」
ビビは床でもがき苦しむルーファスの襟首を掴んで無理やり立たせると、バシーンといっぱつ平手打ち!
「ダーリンのばか! アタシという女がいながら浮気するなんて……この国の法律だと同時に複数の女性と結婚できないんだよ!」
「僕の話を聞けって言ってるでしょう……うっ!(あの杭のせいで話がぜんぜんできない)」
再び打ち付けられる杭。そんなこととはつゆ知らずのビビ。
「そうやって病気のフリして話をはぐらかすつもりなの……ダーリン最低!」
「違うって言ってる……これは……ううっ!(ああ、もうすぐ死ねるかも)」
「ダーリンのばかぁ!」
「だからこれは呪なんだよ……うううっ!(ああ、死んだ祖父が手招きしてるよ、あはは)」
「呪?」
きょとんとしたビビとローゼンクロイツの視線が合う。
ローゼンクロイツの手にはカナヅチとワラ人形。そのワラ人形には杭がブッ刺さっている。ビビちゃんのシンキングタイム。そして、解答は?
「呪!?」
「だから僕がさっきからそう言ってるしょう……ううううっ!」
ビビの肩にもたれかかるようにしたルーファスは気を失った。
「ダーリンしっかりして!」
返事がない。人はこれを気絶と呼ぶ。
真っ赤な顔で憤怒したビビの身体がブルブル震える。もちろん寒いからではない。怒っているのだ。
「よくもダーリンを酷い目に遭わせてくれたわね、もぉ泣いたって許さないんだから!」
「……ぅぇ〜ん、ぅぇ〜ん。泣いてみた(ふっ)」
人を小ばかにしたような笑みを浮かべたローゼンクロイツに、ビビは本気と書いてマジでぶちギレた。
「あぁ〜もぉ、アタシ本気で怒ったかんね! ちょープリティーなアタシが怒ると怖いんだかんね、覚悟しいや人間!」
「……怖い怖い、ぶるぶる(ふっ)」
ローゼンクロイツの挑発は止まることを知らなかった。しかも感情ゼロで、言い方が淡々としているのが妙に腹が立つ。
怒り頂点マックス越えちゃって120パーセントのビビは大鎌をどこからともなく取り出した。
「くたばれ人間!」
大鎌を構えてビビが地面を蹴り上げジャンプした。
ジャンプした時の弱点その1。飛んだら最後、通常空中では自由な身動きができず、方向転換することは難しい。
無表情なローゼンクロイツがカナヅチを投げた。
「……喰らえ悪魔(ふあふあ)」
ゴン!
見事命中。ローゼンクロイツちゃんには100ポイント差し上げます。
「アイタタ……金物は反則だよぉ」
頭を押さえながらうずくまるビビは涙目だった。カナヅチ攻撃はかなり堪えたらしい。当たり前だけど。
かなりやられぎみのビビちゃんの報復手段。投げられたら投げ返せ!
床に落ちてるカナヅチを拾い上げたビビは力いっぱいローゼンクロイツに投げつけた。
「えいっ!」
クルクル回転して向かって来るカナヅチをローゼンクロイツは軽やかに避けた。何気に運動神経はいいらしい。しかも、よく見るとキャッチしてるし。
カナヅチをキャッチしたローゼンクロイツは無言でそれを投げた。
ゴン!
「いたーい! 弱ってる相手に追い討ちかけるなんて卑怯者!」
「……敵は起き上がれなくなるまで叩き潰せ(ふっ)」
「ただの弱い者イジメじゃん!」
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)