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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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飛んで魔導士ルーファス

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 ベルが四次元ポケットから取り出したのは、2丁の機関銃だった。
 それをいきなりぶっ放した。
「死ぬし!!」
 ルーファスはあられもない声を上げて、紙一重で銃弾の雨を『つ』や『大』の字になったりして避ける。そして、『と』の字になったところで腰が抜けて動けなくなった。
 カーシャが叫ぶ。
「元祖プッツン悪魔のベルは誰にも止められん、逃げるぞ!」
 これを聞いてみんなは一目散に『逃げる』コマンド発動!
 一番早足なのがカーシャ、次が存在感の限りなくゼロにしていたローゼンクロイツ、次が足取りの可笑しいエルザ、そして最後に教室を出て行こうとするビビの背中にルーファスが悲痛の叫びを投げかける。
「待ってビビ! 僕を見捨てる気か!?」
「ダーリン……生きてたらまた会おうね……ぐすん」
 目頭に手を当てながらビビは内股で去って行った。
 ――見捨てられた!
 腰が抜けて動けなくなっているルーファスに、目じりを上げたベルがジリジリと近づいて来る。
「あぁん、覚悟はいいかしら、ボ・ウ・ヤ♪」
「……よくないです」
 すっかり酔いの醒めたルーファスの顔は死人のように蒼ざめている。
 ベルが機関銃を魔杖代わりにしてカッコよく呪文を唱える。
「ライラ、ルルララ、出でよ魔界の魔獣!」
 機関銃によって描かれ現れたゲートから禍々しい風が教室内に吹き込む。そして、そのゲートの中に光る眼、眼、眼。いくつもの眼がルーファスを狙っている。
 キシャーッ!!
 奇声をあげながら鋭い爪を持った魔獣がルーファスに襲い掛かった。
「きゃはは、やめて……くれ」
 ルーファスの身体に群がる小さなオッサンたち。オッサンはルーファスの身体を一心不乱にくすぐっていた。な、なんと怖ろしい魔獣なのだろうか。まさに生き地獄だ!
「あはは、きゃはは、やめて!(死ぬ、死ねる、絶対に死ねるし!)」
 身体を動かせないもどかしさ。抵抗できない苦しみ。しかも、オッサンは攻撃のツボを心得ていた。
「おほほほほ……どう、苦しいでしょう。このまま笑い死にさせて、ア・ゲ・ル♪(学校で笑い顔の変死体発見な〜んちゃって)」
「頼む、頼むから殺すんだったら、一思いに……あっ?」
 笑いによって痛みも忘れて動いたせいか、抜けた腰が元通りに治っていた。
 一時停止する、ルーファス&ベル&オッサンたち。
 そして、ルーファス脱走!
 猛ダッシュでルーファスは教室を抜け出し廊下を駆ける。廊下は走っちゃいけません、なんてのは今は無視。
「ルーファス、待ちなさぁ〜い!」
 叫ぶベルが機関銃の先端をルーファスに向けると、オッサンの大群がピョンピョン跳ねながらルーファスを追った。
 必死こいて逃げるルーファスは薄暗い廊下を走る。非常灯のお陰で前が見えるが、後ろから小さなオッサンが追ってくる光景はホラー以外のなにものでもない ――マジ怖い。しかも変な奇声あげてるし。
 ルーファスは階段を駆け上がり、きっとここでオッサンたちは二手に分かれてくれるハズ。
 そのまま足を止めることなく走り続けたルーファスはふと後ろを振り向く。オッサンたちの気配はなくなっている。きっと巻けたに違いない。よかったよかった。
 と思ったのも束の間。ルーファスの前に現れた人影にルーファス絶叫。
「ぎゃ〜っ!」
 ルーファスが腰を抜かすと相手も腰を抜かした。
 胸に手を当てて鼓動を沈め、ルーファスは冷静になって相手の姿を見た。
「な〜んだ、脅かさないでよ鏡じゃん……」
 相手が鏡に映った自分だと知り、ほっとしたルーファスの脳裏にあることが浮かぶ。――学校七不思議。
 ルーファスの通うクラウス魔導学院には、学校お約束の七不思議が存在する。その中の一つである『死の鏡』の噂話。深夜遅く4階にある人の全身を映せる大きな鏡に自分の姿を映すと、死に際の自分の姿が映し出されると云う。
 ルーファスはブルッと身体を震わせて立ち上がろうとしたが、腰が抜けて立ち上がれない。しかも、怖くて逆に鏡から目が放せない。最低最悪の状況だった。
 鏡にすっと人影が映った。もちろんルーファスではない。次の瞬間、蒼白く冷たい手がルーファスの肩に乗った。
「ぎゃ〜っ!」
「叫ぶでない、私だ」
「えっ!?」
 ルーファスが自分の肩に乗った手から視線を登らせていくと、そこにいたのはエルザだった。
「脅かさないでよ(よかった人に会えて)」
「脅かすつもりなどなかった」
「手を置く前に声かけるとかしてよね」
「そ、そんなに怒らなくても……」
 突然エルザが涙を流して泣き出した。
「ど、どうしたんだよ、僕が泣かしたの!?」
「だって、だって、ルーファスが急に怒るんだもん」
 泣きながらエルザはルーファスの身体に抱きついて押し倒した。
 火照ったエルザの身体はとても温かく、ルーファスはあることに気が付いた。
「もしかして、エルザ酔ってる?」
「私酔ってないよ〜ん、ひっく!」
 完全に酔っていた。
 呆れ返ったルーファスはエルザの身体を退かして起き上がろうとするが、エルザはルーファスの身体に足を絡めてきて立ち上がることを許そうとしない。
「ルーファス……もっと、こうしていたい」
「バカなこと言わないでよ!」
「ルーファスは私のこと嫌いか?」
「嫌いとかそういう問題じゃなくって、友達としてこういう行為は……!?」
 唇と唇が重なった。眼を丸くするルーファス。エルザのやわらかな唇によってルーファスの言葉は完全に塞がれていた。
 ゆっくりとルーファスから顔を離したエルザは自分の唇をいやらしくぺロッと舐めた。それを見たルーファスの体温上昇。惚けて何も言えない。
「私はルーファスのことが好きだ……そう、ずっと好きだったのだ」
「……マジで!?」
 酔いのせいか、顔を赤らめているエルザが小さく頷いた。普段凛々しい表情ばかりしている、エルザの恥じらい姿にルーファス胸キュン!
「近所のお姉さんとして、ずっとルーファスのことを見守って来たが、それがいつの間にか恋心に……」
「……マジで!?」
 ルーファスの頭にモーソー、トキメキ、ロマンスが駆け巡る。そう、一時期ルーファスはエルザに恋心を寄せていた時があったのだ。だが、相手は年上のお姉さまで、ちょっぴり大財閥のご令嬢で、出世街道爆進しちゃってるエリート中のエリート、自分には高嶺の花だと思ってあきらめた。
 エルザがルーファスの首に手を回し、耳元で何かを呟く。
「ルーファスは私のこと好きか?」
「はぶっ!?」
 耳に優しい声が吹きかけられ、ルーファスの身体はビクンと震えた。しかも、高級そうなシャンプーの匂いがルーファスの理性を崩壊させようとしていた。このままでは間違いを起こしてしまう。
 激しく揺れるルーファスの心。片思いだと思っていた人からの突然の告白。嬉しくもあり、苦しくもあった。そう、今更なのだ。
 エルザの身体を強く突き放して立ち上がったルーファスは深く頭を下げた。
「ごめん、僕も昔あなたのこと好きでした……けど、とにかく、ごめん!」
 その言葉を聞いてエルザは瞳を涙で潤ませた。
 何も言わない泣き顔のエルザの表情は今すぐ抱きしめてあげたいくらいだったが、ルーファスはその想いを振り切ってこの場から逃げた。
「ごめん!」