飛んで魔導士ルーファス
ビビの瞳はキラキラ輝いていた。ビビの頭の中ではルーファスが白馬に乗って自分たちを助けに来てくれるという妄想ビジョンができあがっていた。
モーソー! トキメキ! ロマンス!
そして、願いは現実のものとなる。ちょっぴり違った形で――。
クラウスが顔を上に向けると、キラリンと空で何かが輝いた。
「ビビちゃん見て、空で何かが光ったのだけど?」
「えーっなになに?」
「ほら、あっち……!?」
「……なんじゃありゃー!?」
空から人が降って来る。世の中にはそんな天気の日もあるんだね。
世界ってミステリーでいっぱい♪
……じゃなかった。
「だ、だ、だ、ダーリン!?」
「ルーファス!?」
急落下してきたルーファスはユキダルマンの見張りを一体大破させながら地面に激突!
深い雪の中に埋もれたルーファスは身動き一つしなかった。
「ダーリン!?」
近くにいたユキダルマンが雪に埋もれたルーファスのようすを見ていると、すぐに騒ぎを聞きつけたユキダルマンたちが10体、20体と氷の住居から出てきた。
辺りは気づけばユキダルマンだらけになっていて、ユキダルマンたちは力を合わせてルーファスを雪の中から引きずり出すと、すぐにロープでグルグル巻きにしてビビの近くに放り投げた。そして、見張りをひとり残して帰っていった。
「ダーリンしっかりして!」
「ルーファス生きてるか?」
返事がない。
ま、まさか、本気で死んだ?
「ダーリン、死んじゃヤダよぉーっ!」
簀巻きにされているルーファスの口元が微かに動く。
「な……な……鍋食べたい」
ビビとクラウスはルーファスを殴り飛ばそうとしたが手足が縛れていたので断念。
「僕を勝手に殺すな……けどマジで死ぬかと思った(地面がふかふかの雪で助かった)」
「ところでルーファス、カーシャ先生はどうしたんだい?」
「カーシャなら、きっと茶でも飲んでゆっくりしてるんじゃないの」
この瞬間、二人の心に殺意の念が湧いたのは言うまでもない。
カーシャが助けに来る意思がないとすると、誰がいったい助けに来てくれるのか。クラウスはさらに頭を抱えた。
「こんなことが起きたなんて知られたら、僕は絶対にエルザに殺される」
「ダーリンのバカ、役立たずのおたんこなす!」
別にルーファスがなにをしたというわけでもないのだが、ヒドイ言われようだ。それというのもビビの期待を裏切ったからなのだが、ルーファスにしてみればとんだとばっちり。
ちょっと急用で王子様は来なかっただけだ。
「私に八つ当たりしないでよ。それにたぶんベル姐さんが助けに来てくれると……思う(あの人も当てになりそうにないけど)」
ルーファスの言葉を聞いてビビの瞳にキラキラと希望の色が差し込んだ。昔の美少女漫画チックに。
「ベル姐ってあのベル姐? ベルフェゴール姐さん!?」
「そそっ、そのベル姐さんが私をホウキの上から蹴落としたんだよ(まだわき腹がイタイし)」
「やったね、ベル姐がここに来れば跡形もなく雪だるまたちを滅殺してくれるよ。なんたって、ベル姐が通ったあとは草一本残らない荒野に化すって云われてるんだから、アタシたち絶対助かるよ」
「やったねじゃなくて、草一本も残らないって私たちも危険ってことだよな」
「うん、そうだよ♪」
無邪気にニコニコ笑うビビ。果たして自分で言った発言を理解しているのだろうか、疑問だ。
二人の会話にクラウスが横から口をはさむ。
「そのベルフェゴールって人、もしかして邪神七将の邪智の女神のことかい?(だとしたら凄いことだ)」
首を傾げるルーファス。そして、ビビはニコニコしながら言った。
「うん、神魔大戦や魔界大戦争で活躍した邪神七将だよ♪」
「魔界のトップに君臨する魔王の1人じゃないか」
これを聞いてはじめてルーファスはビックリした。
「そうだったの!!(ただのカーシャの友達だと思ってた)」
魔導学院で何の勉強してるんですか!
ビビは誇らしげにベル姐のことを語りはじめた。
「ベル姐はホントすごいんだよ、敵を倒すためなら地域一帯を消し飛ばして味方も巻き込んで勝っちゃうんだから……(ってことは)」
自分の発言をようやく理解したビビ。
場の空気が一気に重々しいものに変わる。
そして、みんなで『あはは〜っ』と顔を見合わせながら笑う。
『あはは〜っ』と笑いながらルーファスは蒼い顔。
「どうするんだよバカ……あはは〜っ」
「アタシに聞くんじゃねえよ……あはは〜っ」
「僕たち苦しまずに死ねるかな……あはは〜っ」
3人が精神崩壊気味になっていると、どこからか太鼓や笛の音が聞こえてきた。
氷の家から続々とユキダルマンたちが出てくる。もしや、カーニバルがはじまるのでは!?
ユキダルマンたちは円陣を組んでルーファスたちの周りを取り囲み、何体かのユキダルマンたちはルーファスとクラウスを抱えて円陣の外に放り投げた。
そうだ、たしかベルは女子供が狙われるって言ってなかったっけ?
狙いはビビかっ!
ユキダルマンたちが笛や太鼓のリズムに合わせて躍り出し、ビビの周りをグルグル回りはじめた。表情のないユキダルマンたちがグルグル回る様は異様で怖ろしい。しかも、無言で淡々とやっているところがよけいに怖い。
危機を感じてルーファスはグルグル巻きのまま喚き散らした。
「ビビに何する気だ! やい、私の縄を解いてくださいお願いします。そしたら全員カキ氷にして食べてあげますから!」
喚き散らすルーファスの近くにフライパンを持ったユキダルマンが近づいて来てゴン!
フライパンがルーファスの頭に痛恨の一撃。
殴られたルーファスはそのまま雪に顔を埋めながら気を失った。と思いきや、雪の中から笑い声が漏れてきた。
「はははは、あ〜ははははっ!」
雪に埋もれていたルーファスがバシッと顔を上げて高笑いをした。
「あ〜ははははっ、大魔王ルーファス様登場!」
一部始終を見ていたビビとクラウスが苦い顔をする。
簀巻きにされているルーちゃんがムクッと立ち上がり、ピョンピョン飛び跳ねながら進む。その格好はミノムシが飛び跳ねているようでかなり滑稽だ。
ミノムシ野郎にユキダルマンたちが襲い掛かる。だが、ルーちゃんは強い。伊達に大魔王は名乗っていない。
秘儀、ミノムシキック!
グルグル巻きにされているルーちゃんの必殺技はジャンプキック。
ピョンピョン飛び跳ねながらジャンプキックをユキダルマンたちに食らわし、敵をばっさばっさと倒しいく。その姿を見てビビは幻滅。蓑虫キックはあまりカッコよくなかった。王子様には程遠い。
ユキダルマンたちを一通り倒したところでルーちゃんは高笑い。
「ははは〜っ、どうだ参ったか。これが大魔王ルーファス様の実力だ!」
地面が微かに揺れた。
ルーちゃんの高笑いは続く。
「あ〜ははははっ、ははははっ、はははは〜ん!」
地響きがどこかから聞こえる。ルーちゃんはそれにも気づかずバカ笑いをする。
「は〜ははははっ!」
ルーちゃんの声は空気を震わせ、自然の驚異を召喚してしまった。
クラウスがいち早く気づいて叫び声をあげる。
「あれを見ろ!」
蒼ざめた顔をするクラウスの視線の先を見たビビの顎が外れる。
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)