飛んで魔導士ルーファス
「雪崩かよ!」
巨大な雪崩が海の高波のように山の斜面を滑り落ちてくる。
「あ〜ははははっ……は?」
ゴォォォォォォッ!
ルーちゃんが気づいた時には彼女の視界は真っ白だった。
――数日後。
高熱を出して寝込んでいるルーファスにビビは付きっきりで看病をしていた。
「ダーリン大丈夫?」
「大丈夫なわけないでしょう……は、は、はっくしょん!」
ツバを飛ばして鼻水ダラダラのルーファス。
あの雪崩が起きた時、ビビとクラウスは上空からバイクに乗って現れたベルによって間一髪のところを助けられたのだが、ルーちゃんだけは雪崩に巻き込まれてしまった。
雪崩に埋もれたルーちゃんが発見された時には、ルーちゃんの身体は冷凍保存されていてカチカチに凍っていた。
そんなこんな今に至る。
ルーファスの部屋にある机が突然ガタガタと揺れ、引き出しが勢いよく開き、中から爆乳がブルルンっと出た。それを見たルーファスは思わず声をあげる。
「スライムかっ!」
引き出しの中から白衣の美女が這い出した。
「あらぁん、こんにちわぁん♪」
ベルだった。
「おほほほほ、お見舞いに来てあげたわよぉん(本当は嫌がらせに来たんだけど)」
あのとき起きた雪崩の勢力は思いのほか凄まじく、なんかそれの影響で砂漠に豪雨が降ったり、タイフーンが直撃したり、砂漠が沼地になったり、生態系がぐちゃぐちゃになったり、とにかく大変だったらしい。
しかも、ベルの居城である〈針の城〉は豪雨で錆付いて倒壊したらしい。
爆乳を揺らしながらベルはルーファスの腹の上に座った。
「どう具合はぁん?」
「見ればわかるでしょう……はっくしょん!」
「だいぶ悪そうねぇん。そうだ、そんなことよりも、この家は客にティーも出さないの?」
厚かましい要求を聞いてビビがしかたなくキッチンに向かう。
部屋に二人っきりにされると、ルーファスはいろんな意味でドキドキする。
ベルが軽く咳払いをして不適な笑みを浮かべた。
「ところでカーシャの姿を見たぁん?」
「いや、見てないけど……」
「そう、ということはまだ城の中ってことね、おほほほほほっ」
「はい?」
「実はね、あの雪崩のせいで我が城が泥と雪で埋もれたり倒壊しちゃったり、とにかく掘り起こせないのよねぇん」
あの時、カーシャは城の中でティータイムをしていたのだ。ということは……?
「マジで!?」
ビビがちょうどお茶を運んで来たところで、ルーファスが大きな声を出したもんだから、驚いたビビはおぼんを放り投げ、上に乗っていたコップからお茶が脱走を企てた。
お茶は引力には逆らえず落下。バシャン!
「…………(熱い)」
ベルにかかった。しかし、ベルの表情は少しも変わらなかった。むしろ、慌てたのはビビだった。
「ベル姐、大丈夫っ!」
ビビは慌てて近くにあったティッシュ箱を手に取って、ティッシュをガーって何枚も取ると、ベルの顔を拭きまくった。
「はぁ……はぁ……これだけ拭けば」
肩で息をするビビ。その近くでルーファスの顔は蒼ざめていた。
ベルの顔からはお茶は一滴たりとも残さず消滅した。……しかし、ベルの顔はティッシュのカスですごいことになっていた。それに気付いたビビの顔を蒼ざめた。
素早くルーファスが近くにあった布をビビに手渡すと、ビビは一心不乱にベルの顔を拭いた。
「ごめぇ〜ん!」
一生懸命誠意を尽くしてビビはベルの顔を拭いた。のだがベルは思った。
「……ぞうきん」
「僕としたことが……」
ルーファスの顔が凍りついた。
「ぞうきんを手渡しちゃった(えへっ♪)」
ベルはルーファスの襟首を掴んで立ち上がらせると、無言のままルーファスの腹にボディブローをくらわした。
「うっ……痛い」
まるで鉄球を喰らったような重いパンチだった。
ルーファスは腹を押さえながらゆっくりと床に倒れこむと、それっきり動かなくなった。
ち〜ん、御愁傷様でございます。
何事もなかったようにベルは話題を変えた。
「そうだぁん、この子にお見舞いの品を持って来てあげたんだったわ」
そう言ったベルは机の引き出しの中に手を入れると、両手に収まりきれほどの雪を取り出して、床で死んでるルーファスの身体にドサーッとかけた。
「それで熱も冷めるわよぉん!」
ベルは高笑みを木霊させながら引き出しの中に帰っていった。と思いきや、顔だけを出して一言。
「カーシャが帰ってきたら、夜間のひと気のない道は背中に気をつけてねぇん♪」
今度こそベルは帰って行った。
夏はまだまだ遠く、ルーファスのカゼが悪化したことは言うまでもない。
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)