飛んで魔導士ルーファス
「僕を勝手に商品にしないで! 認めないからね、断じて認められないね。しかもカーシャの権限ってなんだよ(いつから僕はカーシャの所有物に……って、いつものことか)」
「妾の権限は妾の権限だ、文句あるなら徹底的にヤるぞ?(あ〜んな拷問やこ〜んな拷問でヒィヒィ言わせてやる……ふふふ)」
邪悪なカーシャの瞳で見つめられたルーファスはたじろぐ。冷血な瞳の奥に狂気を感じる。逆らったら死ぬよりツライことが待っているに違いない!
脅えるルーファスは無言でコクリと頷いた。それを見たカーシャは微笑んだ。
「うむ、では華々しいレースの開幕といくぞ!」
胸の谷間に手を突っ込んだカーシャは銃を取り出して天に向けた。
「では、位置について……ヨーイ」
ドン!
引き金が引かれ、銃声とともに火花が散った。でも、誰も走らない。唖然として誰も走ろうとしない。そんなビビとクラウスに銃口を向けられる。
「妾がせっかく雰囲気を出してやったのだ。早く走れ!」
キレた眼をしているカーシャは問答無用に銃を乱射させた。銃弾がビビとクラウスの足元に放たれ、砂の中に埋もれ消える。
この人ヤル気だ!!
蒼ざめるビビとクラウスは互いの顔を見合わせて、『さんはい』といった感じ同時に猛ダッシュで逃げる。とんずらこいて!
必死こいて逃げるビビとクラウスの背中に見守るカーシャ。かなり満面の笑顔。
「せいぜい頑張れ、ふふ」
「…………」
腰を抜かしているルーファスの腰は、もっと抜けた。
砂に尻餅を付き、腰を抜かしているルーファスにカーシャが足蹴りを食らわす。
「さっさと涼しい場所に行くぞ」
「は?」
なんかよくわからないがルーファスはカーシャに連行されたのだった。
《3》
燦然と輝く鋼の城――通称〈針の城〉と呼ばれている。
金属でできたその城からは、いくつものパイプが天を突くように伸び、そこから大量の蒸気を噴出している。
城門の前に立ったカーシャがインターホンを押す。
「居るだろベル。遊びに来てやったぞ」
インターホン越しにカーシャが話しかけると、金属でできた城門が重々しい音を立てながらゆっくりと開いた。
城の奥からは強烈なオイルの臭いが噴出しくる。酔いそうだ。
カーシャは躊躇することなくさっさと城の中に入り、ルーファスは躊躇しながら恐る恐る城の中に入った。
城の廊下は足音が響く金属製で、明かりは蛍光灯が照らしている。
カーシャは自分ちのようにドガドガ進み、とある扉の前で止まった。すると、扉は自動的に開かれた。
部屋の中は真っ暗で何も見えない。
臆病者のルーファスはカーシャの腕を掴もうとした。
「殺すぞルーファス。妾のケツが触りたいのならばちゃんと料金を払ってからにしろ」
「ご、誤解だし!」
「裁判をやったら妾が勝つぞ、そこに証人も居るしな」
「証人?」
暗がりが一気にライトアップされた。
「お〜ほほほほほっ、アタクシの城にようこそ!」
白衣を着た姫カールの女が仁王立ちしていた。カーシャといい勝負の爆乳だ。
大人の女性の色香をムンムン漂わせながら、金色の瞳がカーシャとルーファスを映した。
「カーシャちゃん、その子新しい彼氏?(いやぁん、ついにカーシャちゃんにも春が来たのね。今夜は朝まで飲むわよぉん!!)」
「こんなへっぽこが妾の彼氏だと? いつに耄碌[モウロク]したなベル」
「天才的な頭脳を持つこのアタクシが耄碌したですってぇ! そんな見るからにへっぽこなオトコの子、カーシャにはお似合いだと思ったから言っただけよ!」
「こんなへっぽこ、死んでも付き合いたくないわ!」
「そんな贅沢言ってらんないでしょアンタ。そのへっぽこで妥協しなよぉん!」
「ならばへっぽこに欲情したら、お前もへっぽこだからな!」
へっぽこの合戦!
間に挟まれたへっぽこはへっぽこなので、どーすることもできない。
カーシャはルーファスのメガネを奪い取った。
晒されちゃったルーファスの素顔。
それを見たベルは生唾を飲み込んだ。
「び、美形だわ……アタクシの好みだわぁん!」
いきなり欲情。
ベルはすぐさまティータイムの準備をはじめ、ルーファスを特等席に座らせた。
特等席とはズバリ!
――ベルのひざの上。
爆乳がルーファスの背中を指圧する。
「あ、あのぉ〜、胸が私の背中に当たってるんですけどぉ」
「あらぁんごめんなさぁ〜い、ちょっと大きいから当たっちゃうのよねぇん」
そーゆー問題かっ!
二人羽織り状態でルーファスはベルに紅茶を飲まされた。
そんな異様な光景を繰り広げられる中、淡々とカーシャは紅茶を飲み、冷たい視線をベルに送った。
「なぜ妾が来たか訊かんのか?(それどころじゃない感じだがな)」
「別に興味ないもの。アタクシが興味あるのは、ア・ナ・タ♪」
ベルの吐息がルーファスの耳をくすぐった。
ついに耐えられなくなったルーファスが飛び退き、ベルから離れた席まで非難した。
「あぁん、逃げないでぇん。逃げると追いたくなっちゃうじゃなぁ〜い♪」
「……追わないでください」
ルーファスはグルグル眼鏡を掛け直して、いつでも逃走準備オッケーだった。
ベルがなにか思い出したように手を叩いた。
「そうだわ、自己紹介がまだだったわね。アタクシの名前はベルフェゴール、親しみを込めてベル姐さんとでも呼んで頂戴。で、ボウヤのお名前は?」
熱い視線がルーファスに送られた。
「ルーファス・アルハザードです。現在恋人募集してません!」
「だったら愛人だったらいいのかしらぁん?」
色気ムンムンで迫るベル。
冷めた表情でカーシャが見ていた。
「子供をからかうのはその程度にしておけ。そして、妾の話を聞け!」
「んもぉ、怒らないでよ。なにしに来たんですかカーシャちゃん?」
やっと話が本題に戻った。
「?雪男の唾?を取りに来たのだ」
「ふ〜ん。で、もう採ってきたのぉん?」
「妾の下僕2人が命を削って採りに行っているハズだ(死んでなければの話だが、ふふふ)」
「へぇ、他力本願ねぇん(カーシャちゃんらしいわ)。けどぉん、いいことを教えてあげましょうか。次の?雪男の唾?の採取時期は100年後よ、今行っても何もないハズよ(ナ イス無駄足だぁん)」
飲んでいた紅茶をカーシャは噴出した。
「なにーっ!?」
噴出した紅茶は見事にルーファスに掛かったが、そのあたりは軽くシカト。
カーシャは身を乗り出した。
「?雪男の唾?がないとはどういうことだ?」
「去年にカキ氷大会の招待状送ったでしょう?」
「去年……?」
難しい顔でおでこに手を当てて、カーシャの内宇宙への旅がはじまる。記憶を巡り巡らせ、記憶の扉を開ける。そこにある白い封筒と1年前の消印。ハッとしたカーシャは顔を上げた。
「そー言えば届いていたな。そうそう、その日は急な用事ができて行けなかったんだな、ふふふふっ(カーシャちゃんたらおちゃめさん、ふふっ)」
もぉ、カーシャったらうっかりさんだなぁ。
――なんて悠長なことを言ってどうする。何も知らずに?雪男の唾?を採りに行かされてる二人の運命はいかに!?
ここに追い討ちをかけるようにベルがボソッと呟く。
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)