飛んで魔導士ルーファス
「なんだ?(スリーサイズなら教えてやらんぞ)」
「何を探しに行くのぉ?」
「あぁ、言ってなかったな」
言ってません。自己中心的な人はこれだから困ります。
足を肩幅に広げて地平線の向うにそびえる影を指差したカーシャ。
「もう見えるぞ、アレだ。妾のマブダチ可学者ベルの領地。そして、その領地には世にも珍しい砂漠の氷――?雪男の唾?がある。その氷で作ったカキ氷は死人も生き返るほどの美味なのだ」
なんだか不味そうです。
砂漠のそびえ立っていたのは鋼の城だった。
金属で作られたその城から、オイルの臭いが風に乗って運ばれてくる。耳を澄ますと、モーターや火花の散る音が聴こえる。
ルーファスがイヤそうな顔をしている。
「砂漠に氷なんかあるわけないじゃん、帰えるよ(しかも名前が?雪男の唾?って)」
背を向けて歩き出すルーファスの腕をクラウスが掴んだ。
「砂漠に氷があるなんて神秘的じゃないか。ルーファスはトレジャーハンターの血が騒がないのかい!」
「そんな血流れてないし」
「流れていないのなら、今から流すんだ。それでこそ男の中の男だ!(嗚呼、浪漫だ!)」
もうクラウスの思いを誰も止められなかった。
ビビちゃんは最初から行く気満々。
「ダーリンがんばって! アタシに美味しいカキ氷食べさせてくれるんでしょ!」
そんな約束してません。
「あのねぇ、カーシャについて行くとロクなことないよ。それは私が身をもって証明してるんだから、ね?」
どーにかしてルーファスは行かない方向に話を進めたかった。
だが、それを許さないのがカーシャ様!
「ふふふっ、世界一美味いカキ氷が食べたくないと言うのか! 妾について来ないのなら、進級させてやらんからな!」
「……職権乱用だよ!」
「ふふふふっ、なんとでも吠えろ。だが、来なきゃ退学だからな!」
なんか進級が退学にグレードアップしてるし!
爆乳を揺らしながら勝ち誇って笑う魔女カーシャ。
しょせんルーファスには形勢逆転なんか不可能だ。ルーファスがへっぽこを返上するくらい不可能だ。ルーファスは権力を前に屈するしかなかった。
肩を落とし、ため息をつきながらルーファスはお手上げ状態。
「行くよ、行けばいいんでしょ、行ってやるよ!(要は死ななきゃいんでしょ!)」
横暴教師カーシャの完全なる勝利。邪悪なる権力の勝利だ!
「うふふふふっ、?雪男の唾?を手に入れた暁には問答無用で最高の成績をつけてやるぞ!」
負けるな学生、頑張れ学生、それゆけ学生!
?雪男の唾?とやらを採りに行くのはいいとして、果たして危険はないのだろうか。そーゆー特別なアイテムには、それを守るモンスターとかがいるのがお約束で、へっぽこ魔導士ルーファスなんて軽〜くあの世逝きじゃないだろうか?
いや、大丈夫!
こっちにはクラウスもカーシャもいる。
あっ、もう一人いた。
「はにゃ〜ん、身体ぽかぽかぁ」
この仔悪魔はあまり役に立ちそうもなかった。
ビビはカーシャの飲ませたクスリのせいで、未だにポカポカ気分の夢心地だった。それも時間が経つごとに夢心地指数が上がっていくらしく、酔っ払いみたいに足取りが覚束ない。
フラフラするビビはルーファスの方へと引き寄せられて胸板に頭突き。
「うっ!(頭突き……)」
肺の活動を一時停止させながらも、ルーファスはビビの体を抱きしめて顔色を伺った。真っ赤な顔したビビはまるで酔っ払いみたいだ。
「大丈夫ビビ?(なんで酔ってるの?)」
「はにゃ〜ん、きゃはははははっ!」
突然笑い出すビビ。本当に酔っ払ってる。完全にアブナイ人だ。
この状況にルーファスは、元凶であると思われるカーシャに意見を仰ぐ。
「何飲ませたの!?」
「やっぱり、失敗作だったようだな。こいつらに先に飲ませて正解だった(やっぱり材料にマンドゴラを混ぜたのがまずかったな)」
失敗作だってわかってて飲ますなよ。っていうか生徒を実験台にするなよ!
酔っ払ってるビビはルーファスの身体にベタベタくっ付いてくる……いつもとかわないジャン!
な〜んだ。と思いきや、第三者がルーファスの腕に絡んでくる。な、なんとそれは消去法からもわかるけどクラウスだった。
「こんな砂漠でメガネッ娘に逢えるなんて感激だ!」
なんか幻覚を見ているようだ。ルーファスをメガネを掛けた娘だと思い込んでいる。
ヤバイ、ボーイズラブに発展してしまう!
そんな展開ルーファスシリーズで許されるハズがない!
2人に抱きつかれて焦るルーファス。
「ちょっと、ちょっとちょっと、二人とも離れてよ」
「ダーリン、アタシのこと嫌いなのぉ?」
「僕のことも嫌いなのかい?」
二人の愛くるしい瞳がルーファスを離さない。
何も言わないルーファスに対して2人の身体の密着度は上がり、ビビちゃんの小さな膨らみがググッと押し付けられ、高貴な顔立ちのクラウスの唇がすぐそこまで迫っていた。
「ダーリン大好きだよ!」
「僕も君とはじめて出逢ったときから、運命で結ばれているような気がするよ」
ダブル告白!
クラウスの告白がルーファスの胸を激しく突いた。
まさか人生で男に告白されるなんて想定外の出来事だった。しかも、口説きモードに入っているクラウスの甘いマスクは、異常なまでに美しくて見とれてしまう。
相手が男だってわかってるのにルーファスはドキドキしちゃってた。
まさか、ルーファスもまんざらでもない!?
そっち系も対応できるんですかルーファス!!
なぜか無言で見詰め合ってしまうルーファスとクラウス。
そこに嫉妬の炎を燃やすビビが乱入。
「ダーリンはアタシのものなんだからね、クラウスはどっか行って!」
「このメガネッ娘は僕と結ばれる運命にあるんだ。誰にも邪魔はさせないよ」
「ダーリンはアタシの旦那様だもん」
「ふっ、君はしょせん愛人止まりさ」
なんか話が噛み合っているようで噛み合っていない戦い。
ルーファス争奪戦の状況をあざ笑うカーシャ。すご〜く楽しそうに笑っている。
「ふふっ、青春だ。愛する者をめぐる泥沼トライアングル。なんて昼ドラ展開なのだ!」
男と男が女をめぐって戦うのではなく、男と女が男をめぐる特殊バトルだ。しかも、1人の男はもう1人の男をメガネッ娘だと思い込んでいる!
睨み合い、相手を牽制する二人の間に、ルーファスを押し退けてカーシャが割って入った。
「お前ら、妾にグッドアイデアがあるぞ」
「カーシャは引っ込んでてよぉ!」
「これは僕たちの戦いですから!」
激しい態度でカーシャを怒鳴りつける2人であったが、カーシャがこんなところで引き下がるものか!
「うっせんだよ……アタイの話を聴けって言ってんだろうがっ!」
突然、人格が変わったカーシャがガンを飛ばした。
小動物のように震え上がるビビとクラウス。中でも1番ビビッたのはルーファスだった。ルーファスは腰を抜かして口を半開きのまま凍っている。
口に手を当てて咳払いをするカーシャの表情が、いつもどおりの冷めた美女に戻った。
「さて、では妾の素晴らしいアイデアを聞かせてやろう。な、なんと?雪男の唾?を先に手に入れた者に豪華商品としてルーファスを贈呈しよう、妾の権限だ」
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)