飛んで魔導士ルーファス
「こんなところに隠すなんて、これが庶民の常識なのか!!」
クラウスカルチャーショック!
ビビちゃんが手の甲でクラウスをビシッっとツッコミ。
「違うから」
冷蔵庫チェックも終わったところで話を戻そう。
そうだ、夕食の話をしていたのだ。
時間を巻き戻して、その話の続きはたしかカーシャのセリフだった。
――では、こういうのではどうだ?
と、カーシャがなにか提案しようとしていたはずだ。
だが、その当事者のカーシャはすっかりお茶を飲んで寛いでいて、まったく話を進める気がなさそうだ!
てゆか、話の途中だったことさえ覚えていない雰囲気をかもし出している。
誰も話を進める気がなさそうなので、ルーファスは話をまとめることにした。
「じゃあ、コンビニの中華まんを買い占めるってことで夕飯はいいよね?」
ビビは笑顔でうなずく。
「うん♪」
クラウスも異存ないようだ。
「ビビちゃんがオッケーなら僕もそれでいいよ」
そして、今まで寛ぎモードだったカーシャが椅子から、ビシッとバシッとズバッと立ち上がった。
「妾は納得しとらんぞ」
あんたも一緒に夕飯する気ですかっ!
カーシャはルーファスに向かって、これまたビシッとバシッとズバッと指を差した。
「お前の考える贅沢とはその程度のものなのか! 究極の食材で作った至極の料理を1度でいいから食したという志を持て。そして、今から伝説の食材を探しに異界に行くぞ!」
ものすごいスピーディーな急展開。あまりにも突拍子もなくて誰もついて来てない。みんなポカ〜ンとしてしまっている。
時差があってルーファスが声を出した。
「はぁ?」
なんで伝説の食材を探しに行くのかわからない。
どー考えてもカーシャの娯楽だ。
だが、こっちの人はなんだか目を輝かせていた。
「みんなも知ってのとおり、僕の祖父は冒険家でもあったからな。昔から僕も冒険に目がないんだ!」
王様改め、冒険家クラウス行く気満々。
そして、こっちも瞳を輝かせていた。
「行く行く、秘境大冒険とかおもしろそぉ♪(オバケが出てきた拍子にダーリンに抱きついちゃったりしてぇ)」
それはオバケ屋敷です。
ただ独り猛反対するルーファス。
「私は断じて行かないからね(カーシャのことだから、絶対にそこデッド・ゾーンだし)」
カーシャの道楽に付き合っていては、いくつ命があっても足りない。今ここでルーファスが生存していることも奇跡だ。
カーシャが冷血な瞳でルーファスを睨んだ。
「来い」
長々とした脅しより、短い言葉のほうが心臓にグサッとくる。
「行きます!」
ルーファスは作り笑顔で即オッケー。
今ここで殺されるか、異界で危険な目に遭って死ぬか。ルーファスはちょっとでも長く生きられるほうを選んだ。
カーシャは飲み干した湯飲みを置いた。
「では、行くとするか」
そう言って胸の谷間からマジックアイテムを取り出した。
その形は金庫のダイヤルのようで、冷蔵庫のドアにピタッと張り付いた。
カーシャはダイヤルをクルクルと回し、冷蔵庫の取っ手を引っ張った。
「開けゴマ!」
カーシャの高らかな声とともに冷蔵庫が開かれ。激しい閃光が部屋中に満たされる。
ビビとクラウスは自ら光の中に飛び込んだ。
逃げ出そうとしたルーファスのケツにカーシャの蹴りが入った。
「うわっ!」
ルーファスは頭から冷蔵庫の中に突っ込んだ。
「さて、行くとするか……ふふっ」
最後にカーシャが光の中に飛び込んだ。
《2》
暑い、暑い、地面も熱い砂漠地帯。
ムカつくほど照りつける太陽。
なにもしなくても汗が滝のようにダラダラ流れ落ちる。
もともと痩せ型のルーファスが、今はさらにゲッソリして干物になりかけている。
炎属性の精霊サラマンダーの守護を受けているクラウスでさえ、暑さで意識を朦朧とさせている。
もともと環境の厳しい魔界で育ちのビビは、多少の暑さは感じているようだが、なんか異常に元気だった。
「ほら、ダーリンしっかりしてよぉ!」
「み、みず……(もう喉がカラカラだよ)」
水をくれと訴えるルーファスにビビが取り出したのは?
「はいダーリン、ミミズ♪」
干からびたミミズだった。
そんなギャグにもはやツっ込む体力さえルーファスにはなかった。
クラウスが突然、遠くを指差して声をあげた。
「見ろ、オアシスだ!」
指の先には地平線まで広がる砂漠――蜃気楼だった。
クラウスは蜃気楼のオアシスに向かって走り出す。
「小麦色の美女たちが水浴びをしているぞ、早くナンパしなくては!」
使命感に駆られてダッシュするクラウスの前にカーシャが立ちはだかった。
「幻だ、しっかりしろ!」
カーシャの鉄拳がクラウスの腹に入った。
「うっ……美女が……(僕を待っているのに……)」
バタン!
クラウスは砂の海に沈んだ。
砂漠の大地に凛々しく立つカーシャ。
「お前たち、この程度の暑さで音を上げていては学院を卒業できないぞ!(妾に金を積めばどうにかしてやらんこともないがな、ふふっ)」
この暑さの中で平然としているカーシャ。
氷の女神ウラクァと水の精霊アンダインの守護を受け、氷の魔女王の異名まで持っているカーシャが、こんな灼熱の砂漠で平然としていられるハズがない!
干からびた手を上げるルーファス。
「はぁ〜い、センセー質問でぅース」
「なんだルーファス?」
「ゼンゼーはどーじで平気なんでずが?」
「魔導具を使っているに決まっておるだろう」
あっさり。
最後の力を使い切ったルーファスも砂の海に沈んだ。
カーシャは二人が溺死しそうなのもほっといて、さっさと先を急ごうとする。
元気なビビがカーシャの袖を掴んだ。
「ダーリンたちを助けてよ、魔導具があるんでしょ?」
「ある」
「だったら早く助けてよぉ!」
「高いぞ」
「死ね♪」
笑顔でビビちゃん臨戦態勢。いつの間にか大鎌を構えてカーシャの首に突き付けていた。
そんな脅し程度じゃカーシャは動じない。
「ウソに決まっておろう。妾もそこまでケチじゃない、これを飲ませろ」
カ−シャはちまたで噂の四次元胸の谷間に手を突っ込み、3本の試験管を取り出した。
そして、コルクのフタを親指で弾き開けると、問答無用に1本目をググッとビビの口の中に――。
「うっ……うぐっ……アタシは別に平気だし!?(苦くてマズ〜イ)」
「実験体は多いほうがいいだろう」
「アタシまで巻き込まないで!」
「料金の代わりだと思え」
やっぱりケチだ!
謎のクスリを飲まされたビビの頬が少し赤らんだ。なんだか嫌いな授業中に浴びる春のポカポカ陽気が、ビビの体を包み込んでいるように暖かい。このまま寝たらとっても気持ちよさそうだ。
カーシャは残り2本のフタも開け、強引に干物状態の2人に飲ませた。すると、効果はすぐに現れた。
潤いたっぷり美肌でルーファス&クラウス復活!
「……死ぬかと思った」
「美女たちが消えた……幻だったのか」
無事生還できたようで、今回の実験は見事成功したようだ。
暑さの問題が解決されて、4人は先を急ぐことにした。
しばらく歩いていると、ビビが『はぁ〜い』と手を上げた。
「カーシャに質問タ〜イム♪」
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)