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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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飛んで魔導士ルーファス

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第3話_そんなこんなで休日



《1》

 仔悪魔ビビとの共同生活を営みはじめて早数日、ルーファスは毎日の生活をある意味退屈しないで過ごしていた。
 そんなルーファスにもやっと安息できる休日がやって来たのだ!
「ダーリン、あそぼ!」
 ――安息できませんでした!!
 ソファーに座っているルーファスの上にビビちゃんジャンプ。
「うっ!」
 ビビの膝がルーファスの腹にボディブロー。
「ダーリンどうしたの!?」
「腹……が……」
「空いた?」
 スパーン!
 ルーファスのチョップがビビのおでこに炸裂。その勢いでビビは床に尻餅をついてチラリン。スカートの合間から覗く水色ストライプ。今日はクマさんではないらしい。
 せっかくの休日だっていうのに、ルーファスに安息はない。しかも、ただの休日ではないのだ。
「ダーリン今日の夕飯何にするぅ?」
「ビビは作らなくていいから(……悪夢がよみがえる)」
「せっかく腕によりをかけてダーリンに美味しいもの食べてもらおうとしたのにぃ」
「腕によりをかけなくていいから、はぁ」
 ルーファスはため息をついた。
 昨日も手作りお菓子とかいう触手のついたナマモノを出されたばかりだった。
「いつもどおりデリバリーかコンビニで済ませばいいよ」
「ええ〜っ、やっぱりアタシが作るぅ」
「だから作くらなくていいから」
 笑顔のルーファス。目の奥が笑ってない。
 もともとルーファスは自炊をしない。てゆか、できない。
 なのでもともとコンビニ弁当かデリバリーでいつも済ませているのだ。
 ルーファスはそれで慣れているが、同居人がたまには手料理が食べたいとダダをこねる。
 かと言ってビビの料理センスはゼロだし、ルーファスもレンジでチンとお湯を注ぐ料理しかできない。
「困ったなぁ(外食はめんどくさいしなぁ)」
 ルーファスが天井にシミを数えながら考え事をしていると、部屋の片隅から青年の声が聞こえてきた。
「で、ルーファスはなにが食べたいんだい?」
 この声を聞いてルーファスがソファーから起き上がる。
「な、なんでクラウスが僕の部屋にいるんだよ!?(ウチに来る人ってインターホンを鳴らしたためしがない)」
 部屋の片隅でクラウスが自分の部屋のように寛ぎながら雑誌を読んでいた。
 てゆか、これでもクラウスはこの国の王様だ。こんな場所で油を売っていていいんですか?
「王宮で食事会があってね、めんどうくさいから影武者を立てて抜け出して来ちゃったよ、あはは」
 さわやかにクラウスは笑った。
 食事会=社交界=外交問題。
 見事な外交無視です!
 雑誌をパタンと閉めたクラウスは身体を伸ばしてビビに視線を向けた。
「ビビちゃんはなにか食べたいものあるかい、人間の料理限定でね?」
「う〜ん、ラアマレ・ア・カピス!」
「あはは、それはデザートね。もう一度聞くけどルーファスはなにが食べたい?」
「もしかしてクラウスがおごってくれるの?」
「ああ、もちろん。なんでも好きな物を食べさせてあげるよ」
「ラマカレ・ア・カピス!!」
 元気よくビビが口を挟んだ。
「あはは、だからそれはデザートね」
 クラウスは営業スマイルでビビの発言をヒラリとかわした。
 明日で世界は消滅します、最後に食べたい物はなんですか――みたいな質問をされたような顔で考え込むルーファス。
「う〜ん、じゃあコンビニのデラックス肉まんを死ぬほど食べたいなぁ(いつもはお金節約してノーマル肉まんしか食べてないからなぁ)」
 スーケルが小さいです。器の小さい男です。てゆか、欲がなさ過ぎです。
 一国の王、それも魔導産業で財政ウハウハの魔導大国アステアのトップが、庶民が食ったことねぇーもんをたらふく食わせてやるよ、ぐふふ――と言っているにも関わらず(言ってないけど)、ここでデラックス肉まんを注文するのかっ!!
 はい、それがルーファスクオリティーです。
 ビビはちょっぴり不満そうな顔をしている。
「ええ〜っ、肉まんより苺あんまんのほうがいいよぉ」
 包んでいる具が変わっただけだった。
 ビビとルーファスのクオリティーはほぼ一緒だった。
 そして、そんなルーファスの友達も――。
「それいいね、僕もコンビニの中華まんをお腹いっぱい食べてみたかったんだ(そんなこと王宮で言うと止められるからな)」
 みんなそろってルーファスクオリティー!
「では、こういうのではどうだ?」
 その声は4人目の声だった。
 しかも、ちょっと離れたキッチンから聞こえた。
 3人が急いでその声の主を確かめに行くと、キッチンでお出迎えしてくれたのは!?
「ルーファス、茶菓子のストックがなくなったから補充しておけ」
 なぜかキッチンでクッキーを頬張っているカーシャ。
 ルーファスはすぐさまクッキーの缶を手に取って、フタをカーシャに突き付けた。
「僕が大事に取って置いたクッキーだったのに!(せっかく夜食で食べようと思ってたのに)」
「知るか。それよりもさっさと客人に茶を入れろ」
 不法侵入者を客人とは呼べません。
 でも、カーシャがルーファス宅に不法侵入するのはいつものことだ。第2の実家と行ってもいいほどで、カーシャの食器セットまで置いてある。
 ルーファスは暗い顔をしてカーシャ専用湯のみで茶をいれた。
 クッキーはすでにカーシャの口の中。ルーファスは未練がましくクッキーの缶に残る匂いを嗅いだ。顔面がゾンビのように蕩ける甘い匂いが、春の麗らかな陽気と小川のせせらぎを誘って来て、その小川の向こうでは死んだお爺ちゃんお婆ちゃんがニコニコしながら手を振ってる。
 トレビア〜ン!
 ルーファスがクッキーの余韻を楽しんでいると、突然ビビがクッキーの缶を奪い取った。
「せっかくの残り香!」
「このクッキーアタシ知らない。もしかしてダーリンひとりで食べるつもりだったのぉ?」
「ギクッ!」
 口に出してしまうなんて随分わかりやすい性格。
 ビビのクリクリした瞳がルーファスの濁った瞳を覗き込む。
「今、『ギクッ!』って思いっきり口に出して言ってたよ。白状するなら今のうちだよ、今だったらカツ丼もついちゃうよ、言いなさい、言え、言えよぉ!」
「キレれないでよ。もちろんビビと一緒に今晩の夜食にしようとしてたんだよ(本当はひとりで食べる気だったけど)
「ビビと一緒に今晩の夜食……ビビと一緒に……夜アタシのこと襲うつもりだったのね!」
「言葉の意味を履き違えないでよ!」
「そうならそうって言ってくれればよかったのに。今からアタシのこと召し上がれ」
「だから違うって言ってるでしょ!(妄想が激しすぎ)」
 2人の痴話喧嘩というか、夫婦漫才を見ながらカーシャはニヤニヤする。
「青春だな(若気に至りで過ちの愛、生きるって素晴らしいな! ふふっ)」
 3人とは空気感の違うクラウスは勝手に冷蔵庫チェックをしていた。
「ほお、これが庶民の食生活か……(質素だ)」
 冷蔵庫の中には食材が入っていなかった。
 入っているものと言えば、冷凍食品、アイス、食べかけのケーキ、プリンターのインク、湿布、目薬……そして、貯金箱!
 クラウスが貯金箱を取り出そうとすると、ルーファスが必死で止めに入った。
「だめだめ、せっかく隠してあるんだから出さないでよ!」