飛んで魔導士ルーファス
なんか口調が完全に酔っ払いです。
ビビはハっとして立ち上がった。
「そうだ、ダーリンにキスしなきゃ!」
愛しいダーリンのもとに飛び込もうとするビビの視線に光り輝く物体が入った。
クルクル回り放物線を描いてビビに向かって飛んでくる物体。
「わぁ、折れた刀だぁ」
それがなんであるかビビが気づいたと同時に、折れた刀はビビの前髪を掠りながらスパーンと足元に突き刺さった。きっと、ビビの胸にもっと凹凸があったら大変なことになっていただろう。時として幼児体系も役に立つ時があるのだ。
地面に刺さる折れた刀を見ながらビビの中でカウントダウン。
――3。
――2。
――1。
「おんどりゃー! アタシを殺す気か!」
禍々しい鬼気を放ったビビはどこからともなくちょー巨大ハンマーを召喚!
ハンマーの大きさはだいたい人間の脳天を一撃でクラッシュさせられるくらい。
小柄なビビの身体から想像もできない力でハンマーをブンブン振り回すその姿は、悪魔というよりは鬼神。
猪突猛進のビビちゃん。豚は猪の改良種!
ビビの怒りの矛先はエルザだった。
「おのれぇエルザぁぁぁっ!」
「私のせいではないぞ、ルーちゃんが私の愛刀を追ったのだ!?」
「問答無用じゃ!」
言葉遣いが明らかに変わっちゃってるビビが第一球振りかぶる!
空振り!
「私のせいではないと言っておろう!(くそっ、二重人格かこの娘は)」
「ダーリンはアタシのもんだ!」
第二球振りかぶる!
空振り!
「私の話も聴け!」
「ダーリンを返せ!」
第三球振りかぶる!
空振り三振!
紙一重でビビの猛攻をかわしたエルザは、ルーちゃんとの戦闘以上に体力を消耗していた。
このままではラチが明かないと判断したビビはハンマーを投げ飛ばして、大鎌を取り出した。ちなみに投げられたハンマーはどっかの誰かさんたちが団らんしていたちゃぶ台を大破。
大鎌を取り出したビビはなんと……ルーちゃんを人質に捕った!?
「ふふふ、ダーリンを人質に捕られたら手も足もでないでしょ。アタシ天才!」
何か間違ってませんかビビちゃん?
しかし、なぜかルーちゃんは人質気分。
「た、助けてくれ!」
ついでにエルザも人質を捕られた気分。
「くっ、小癪な!」
唾を飲む音が聞こえる。
首にナイフを突きつけられたルーちゃんは身動き一切できず、エルザは折れた刀の柄を強く握り直しどう戦う?
誰もがこの先の展開を見守った。しかし、誰もいつの間にかビビが悪役に転じていることにツッコミを入れる者がいない。ここにいる者たちはどちらかと言えばボケ担当だった。この事態を打開できるのはツッコミだけ……なのかっ?
校庭に空っ風が吹き、黄土色の砂埃がローゼンクロイツに舞う。
地面に映る青い影。その人物はビビとルーちゃんの真後ろに迫っていた。気配を忍者なみに消すことのできる者。団らんの仕返しだった。
青い影が先端に三角の付いた棒を振り上げる。
ゴン!
後頭部を強打されたルーちゃんが顔面から地面に転倒気絶。
ゴン!
2発目の攻撃でビビが頭を押さえて地面にうずくまる。
「いたぁ〜い……誰?」
涙目でビビが後ろを振り向くと、そこにはシャベルを構えたローゼンクロイツが立っていた。
「……実力行使(ふにふに)」
――だそうです。
地面で身動き一つしないルーちゃんをビビが慌てて膝枕で抱きかかえる。
「ダーリン、ダーリンしっかりして!」
「うっ……うう……」
微かに動くルーちゃんの唇。
「ダーリン死んじゃヤダよ!」
「うっ……今日のパンツは、あっクマだ……あくまだ……悪魔だ……なんちゃって……」
「ダ……ダーリン、ダーリンのばかっ!」
強烈なビビの平手打ちがルーちゃんの頬にクリティカルヒット!
鼻血が噴水のように飛び出し、ルーファスは完全に目を覚ました。
「あれっ? ここどこ……学校……う〜ん、記憶が曖昧だ」
「ダーリン!」
涙をいっぱい浮かべたビビは両手をいっぱいに広げてルーファスに抱きついた。その時にあることに気づいた。
……胸がない。
自分の胸じゃなくってルーファスの豊満なバストがなくなってる!?
「ダーリン、元に戻ったんだね……」
「元にって僕……があっ!?」
ルーファスは自分の鼻を触った感触が生ぬるいことに気が付いて、真っ赤に染まった掌を見た。
「なんじゃこりゃ〜っ!?」
素っ頓狂な声を荒げたルーファスは真っ青な顔になって、ビビの膝にうなだれる。
「ダーリン、ただの鼻血」
「えっ、鼻血?」
「もぉ、ダーリンったら(そんなヘタレなとこが大好き♪)」
「あはは、な〜んだ鼻血かぁ」
いつの間にか二人の世界に入っているルーファスとビビを冷めた目で取り囲む三人。
まず、顔を真っ赤にしている生徒会長様から一言。
「……こんな公衆の面前で恥を知れ!」
次に一升瓶を片手のカーシャ姐さんから一言。
「あぁん、青春よねぇん!」
最後に無表情のローゼンクロイツから一言。
「……不潔(ふっ)」
顔を真っ赤にして状況把握をしたルーファスが慌ててビビの膝から起き上がる。
「か、勘違いしないでよ! 私は無実だ、何が無実だか自分でもなに言ってるかわからないけど無実だ。私は潔白で純粋無垢の青春真っ盛りの学生さんです!」
言えば言うほどドツボに落ちる。
ピエール呪縛クンがルーファスの眼前に突きつけられる。
「エッチ、痴漢、破廉恥!」
「私が何したんだよ、気づいたらグラウンドだし、何があったか誰か説明してよ!」
一方的に全生徒から軽蔑の眼差しで見られるルーファス。
ルーちゃんの起こしたあの一連の行為はルーファスの深層心理だったのか……?
下駄箱から木刀を構えて猛ダッシュしてくる人影。
怒った顔をして走って来たのはクラウスだった。
「ルーファス! さっきはよくも!」
「私はなにもしてません!(だって覚えてないもん)」
「僕の大事なレディたちに恥辱を働くとは……問答無用だ!」
クラウスにとって世の女性はみんな大切なレイディなのだ。
禍々しいオーラを放った木刀がルーファスの顔面に改心の一撃!
グォン!
勢いよくルーファスは後頭部を地面に打ち付けた。
「ダーリン!」
すぐにビビが抱き起こそうとすると、ルーファスはビビの体を振り払って自らの力で立ち上がった。
「あ〜ははははっ、大魔王ルーファス様復活!」
「…………」
いろんな場所からため息が漏れ、メガホンを構えたカーシャが大声で話す。
「うむ、みんな授業に戻るぞ」
いろんなところから『は〜い!』という返事が返ってきて、流れ解散。
教室に帰っていくカーシャたちの背中にルーちゃんが怒鳴り散らす。
「おい待て、わたしを無視するつもりかっ」
「ダーリン、アタシだけは無視しないよ!」
ルーちゃんの首に腕を絡めて抱きつくビビ。
グラウンドにぽつんと残された二人を見て誰かが呟いた。
「……ばかばっか(ふっ)」
この後、授業はルーちゃんを完全無視して通常通り行われたとさ。
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)