飛んで魔導士ルーファス
あと少しエルザが手を伸ばせばルーちゃんに――というところで、後方から大鎌がブーメランみたいに飛んできた。明らかに殺人を狙った行為だ。
紙一重でエルザは大鎌をかわした。
「殺す気かっ!(やはり悪魔だ侮れん)」
「殺す気よ! なんでアンタがダーリンのこと追ってんのよ!」
一足遅れたビビだったかが、すでにエルザの真横を走っていた。
「ルーちゃんが世界制覇を目論むのであらば、私はそれを止めなくてはならん!」
「そんなこと言ってダーリンの唇を奪う気なのね、この女狐!」
「唇、唇、唇、私がルーファスと接吻……」
エルザのモーソーモードが発動した。
そして、すぐに鼻血を噴いてモーソー旅行から帰還した。
「私がルーファスと接吻したいと申すのか!(……いきなり接吻なんて、恋エルザには順序が……そう、まずは文を書き留めるところから)」
再びモーソー。
ブハッ、と鼻血を飛ばしてエルザは切っ先をビビに突きつけた。
「黙れ小悪魔!」
「なに、アタシとヤル気なのぉ?」
ビビの瞳が金色から赤く変わった。きっとマジモードだ。
エルザが大きく刀を振り上げ、ビビの脳天を狙って振り下ろした!
「成敗してくれる!」
だが、その刃はギリギリのところで止まった。
「どうだアタシの真剣白刃取り!」
「小癪な!」
刀を持つエルザの手が振るえ、ビビの手もブルブル震えている。二の腕ダイエットだ!
廊下中にけたたましいエンジン音が鳴り響く。
向かい合ったままビビとエルザはそっちを見た。
するとそこには750ccのエンジンを搭載したジェットホウキに跨る女教師が!
「虚けらが、ルーちゃんはもうとっくに先を行っておるぞ」
エンジンを吹かしたカーシャ先生がジェットホウキで廊下を暴走!
すでに一色触発状態を解いた2人の横を、もの凄いスピードですり抜けていくジェットホウキ。
校内でジェットホウキに乗るなんてアホだ。
生徒会長エルザが注意する。
「カーシャ先生ヘルメット被ってください!」
そこかよ!
たしかにヘルメットは被らないと危ないです。よいこのみなさんはジェット箒に乗るときにヘルメット着用しましょう。
完全にルーちゃんを見失った二人は顔を見合わせて睨み合う。きっと見える人には火花が見えるハズだ。
「アナタがアタシを殺そうとするからいけないのよ!」
「悪魔の言うことに耳は貸さぬ」
「そーゆー偏見やめてくれる? 悪魔が全員悪い奴みたいに言わないでよ」
「悪魔は全て悪だ」
「そりゃー悪魔の中にだって悪い子とかいるけど、特にベリアル大王様とか。でもね、グレモリー公爵様は立派なんだから!」
「みんな所詮は悪魔であろう!」
「ああ〜っもぉ、アナタと話しても平行線。じゃ、お先に!」
走り去るビビの背中にエルザが声をかける。
「おい、待て!」
教室から覗く顔顔顔。すでに学院は大騒ぎになっていた。
刀を鞘に収めたエルザはビビの背中を追う。
前を走るビビにエルザが声をかける。
「おい貴様、ルーちゃんの所在がわかるのか?」
「貴様って呼び方やめてよね。アタシの名前はシェリル・ベル・バラド・アズラエル。呼ぶ時は愛称のビビで呼んでよね!」
「ならばビビ、改めて訊くがルーちゃんの所在がわかるのか?(先ほどから迷いなき追跡、おそらくなにかを頼りに走っているに違いない)」
「もちろ〜ん。ダーリンの匂いを辿ればすぐにわかるよん♪」
「貴様は犬か」
「わん!」
エルザはビビの言葉を信じて後を追う。
廊下を抜け階段を駆け下り下駄箱を抜け、目くるめく景色の移り変わり。
ルーちゃんは意外に簡単に見つかった。
魔杖を持ったルーちゃんはグランドをキャンパス代わりにお絵かきをしていた。カーシャ先生監修のもと。
遠くからビビがルーちゃんに呼びかける。
「ダーリン何してるのぉ?(なんか物凄いマナを感じるんだけどぉ)」
「来るな、入ってくるな、魔法陣が消えるだろう!」
グランドを上空からヘリコプターで見たらわかりやすいだろう。それはまるでミステリーサークルのようだった。もうすでに教室の窓から何人もの生徒が顔を出してその紋様を見ていた。
果たしてルーちゃんは何をしようとしているのか?
ルーちゃんのすぐ横でカーシャが指示を出している。その通りにルーちゃんは紋様を描いているのだ。
「そこはまっすぐ引いて、そっちと繋げて……違う、違うと言っているだろうが。そこが最初に念を送る場所なのだから、もっと丁寧に描け」
「こんなもんで本当に成功するのか?」
ルーちゃんはカーシャの指図まま動いているが、本当にこれが効果を上げるものなのかは疑っていた。
呆然とルーちゃんたちの行動を見てしまっていたビビとエルザだったが、ビビが先に動いて避雷針の上によじ登り、ルーちゃんがいったい何を描こうとしているのかを見定めようとした。
「なにこのラクガキ……召喚の魔法陣でもなさそうだし……それにしてもなんてマナなの!?」
上から見た紋様は何かの配線コードのようで、紋様というよりは機械の内部のようだった。
そして、辺りを飛び交うマナフレア。
マナフレアとは魔法の力がいっぱいのところに集まるエネルギー結晶のことだ。
ルーちゃんの身体が止まる。全てを描き終えたのだ。
「これでいいかカーシャ?」
「まあまあだな。だが問題はないだろう(あったらあったで知らんがな、ふふ)」
カーシャは胸の谷間に手を突っ込むと、そんなとこに絶対入るハズがないメガホンを取り出した。あの巨大な胸の谷間は底を知らない四次元なのだ。
魔導メガホンの魔源をオンにして、カーシャが声高らかにしゃべりだす。
「愚民ども、耳の穴をよーくかっぽじって聞くのだ。これから魔科学の実験を行う。モルモットはお前たちだ!!(よし、決まった)」
小さくカーシャはガッツポーズした。
学院中から地の底で悪魔が唸っているようなどよめきが巻き起こる。
この学院の生徒ならば誰もが知っている。カーシャと黒魔導教員ファウストの実験には気を付けろ。二人とも犠牲をなんとも思っていないからだ。
とくにカーシャの実験はヒドイ。
ファウストの実験はあくまで魔導に対する探究心で、ちょっぴり恋は盲目になってしまうだけなのだが、カーシャは確信的に誰かを犠牲にして弄んでいる。
校内で授業をしていた生徒たちがヨーイドンで逃げ出す。
四角い箱に波線を描いたコイルをモチーフにした場所にルーちゃんが立つ。
「ここから念を送ればいいんだな?」
カーシャはルーちゃんから離れた四角い模様の中から返事を返した。
「そこで念じることによって、妾を経由して力を増幅させるのだ」
何が起ころうとしてか誰にもわからなかった。
避雷針の上からスルスルと下に降りたビビはすぐにエルザの横に駆け寄った。
「なにやってるかわかるぅ?」
質問されたエルザは困るかと思いきや、エルザにはこの幾何学模様が何であるかわかってきていた。
「これは装置に違いない。カーシャ先生の言葉から察して、念を増幅させる装置。つまり、サイコキネシス装置と言ったところだろう」
「もっと噛み砕いて説明してよ」
「超能力発生装置だ」
もっと噛み砕くと、誰でもエスパーになれちゃうよ装置。
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)