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死神に鎮魂歌を

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 あるべき死をあるべきものとして受け入れている、人間にそっくりな、けれどどこか決定的に違う死神たち。
 その死神たちは扉を過ぎると見えなくなる。
「何処行くの?」
「……とりあえず誰もいないトコロで話したい」
 小さな声でそう呟いたレノイに反論出来る事もなく、志織は何処に行くのか分からないまま後をついて行く。
 まだ人気がほとんど無い居住区の、まだ志織が行った事のない道を通っていく。通って通って、歩いて歩いて辿り着いたのは
「うわぁー!」
 志織がそう感嘆の声を洩らしたのも無理はなかった。
 辿り着いたのは居住区の一番上、死神たちの部屋があるフロアから更に一段上っていったフロアにただ一つあったドアから出た先。ドーナツ型のかなり広い真っ白い空間で、空いた穴の中央には植物が相変わらず浮いていた。一面の白い色と緑色や水色のコントラストが清くてひたすらに綺麗だった。
「綺麗……」
「そうか? もう俺は見慣れたけどな」
 相変わらずなレノイの言葉に何か言おうとしたが、そんな志織の気持ちを知ってか知らずかレノイはさっさと前へ進んでいく。
 そうして転落防止用の柵も何もない、ドーナツ型のフロアの穴に当たる部分の端にレノイは腰を下ろす。落ちるなど微塵も思っていないのか足は穴の方に下ろして。
 倣って志織も座ってみたが、ついつい足元を見ると底が全く見えないあまりの高さに目眩を起こしそうになって、足を引いて半歩下がるとそこに体育座りで腰を下ろした。
「なんだ? 怖いのか?」
「そういうレノイの方こそ、なんで平然とそんな事出来るの……」
「慣れだろ、単に」
「……そう。ココが『誰もいないトコロ』なの?」
「あぁ。滅多な事じゃ誰もココまで来ない。ましてや今日は長老の葬式だからな。絶対に誰も来ない」
 そこまで言うと今まで前を見て空中を見てるのか、そこに浮いている植物を見てるのか定かではなかったレノイの遠い目が、斜め後ろにいる志織に向いた。
 そうして
「……悪かった」
 その視線は少し下に傾いて、今まで志織が見た事ないような気弱な表情をしていた。
 だからか一瞬、何を言われたのか志織は分からずその間にもレノイの謝罪は続いていく。
「お前にはほとんど非がないのに、お前を避けてたのも俺が何にも言わなかったのも、全部俺の自分勝手な理由なんだ。だから……悪かった」
 そこまで言ってからようやく志織はレノイが自分に謝っているんだと頭に届いた。
「レノイが私に謝ってるー!? いやだ、明日、絶対に雪降るよ!」
「ココから落とされたいか、この野郎」
「落とされたら死んじゃうよ!」
「気にすんな。大抵は植物に引っ掛かって軽傷か重傷で済むから」
「重傷!?」
 だから思わず立ち上がって志織は戦慄した。今までぶっきらぼうでも優しい言葉をかけてもらった事はあるが、謝ってもらった事は一回もないから。理由は大抵が志織の方が謝る機会のほうが断然多く、そうでない時にも志織の方が自然的に謝っていたから。
 まだ信じられなくて顔を上げたレノイの顔をじっと見つめる。
「まぁお前をここから落とすのはまた別の機会にしとくとしてだ。今、言ったようにここ最近の俺の行動の原因はほとんど俺に責任があるんだ。なのに何にも言わなくて、お前を辛くさせて悪かった。ここ最近、魂の回収作業で顔あわせる度辛そうな顔してただろ」
 志織と同じくらい、問いかけるように見つめ返されて、あまり人と目を合わせる事に慣れていない志織は顔を僅かに伏せてその場に座りなおす。
「……うん。今までのやり取りの全部が全部レノイ自身の減罪のためにしてきた事だって思うとスゴく悲しくなってきて、それに瑞希と瑞穂が言ってた犯罪者っていうの信じられなかったのに、レノイスゴい冷たい態度で肯定しちゃうし……」
「あ」
「え、な、何?」
「そうだ。それは言っておかなきゃいけないんだけど、あの双子が言った『志織以外の元人間の死神は全員地獄行きの犯罪者』っていうのは本当の事だからな」
「……そうなの? 全然、そんな風には見えないけど……」
「だとしたら減罪の為に死神の仕事やってるって事も成り立たなくなるだろうが。……妹がな、俺にはいたんだ。ドコかお前に雰囲気が似てた妹が。あぁ外見もちょっと似てたかな。そうは言っても俺の妹の方が百倍は可愛かったけど」
 そう言ってふざけて話すレノイはいつもの様子だったから志織は何も言わなかったけれど、ふとレノイはまた遠い目をして表情もストンとどこかに落としたかのように一瞬で無表情になった。
「……けど、生きてる間、仲は良かったけど正直煩わしく思ってた時もある。俺と妹は早々に親を亡くして、二人っきりで、俺一人じゃなくて。俺一人だけだったら普通に働いているだけで暮らしていけたのに、妹の分まで金を稼がなくちゃならなくて……お前を迎えに行った時の話を覚えてるか? 人間の魂が死神になったのは産業革命で人口が急速に増えすぎて今までの死神の人数じゃ追いつかなくなったって」
「うん」
「その時代は色んなモノが急激に変わっていって、死神の人数だけじゃなくて人間の世界の方でも色々追いつかなかった。環境が悪い中での労働に、急に都市化が進んで治安が悪くなった街。だから犯罪を犯してるって意識も低くなっていた。金が欲しくて色んな店の物や金を盗んだり、人に見つかってその人を傷付けたり。……最終的には俺が逆に刺し殺されて終わったけどな」
「……あ、」
『刺し殺される』という、およそ志織の中では身近に感じられなかった言葉が出てきてギョッとした後、それが目の前にいるレノイに実際に起きた事なんだと思って何を言ったらいいか分からなくなってくる。
「……別にお前がそんな顔をする必要はないと思うけどな」
 そのまま何も言えないでいると、レノイに頭を撫でられた。自分がどんな顔をしているか正確には分からなかった志織だけれど、胸の中がその時におそらく道端で激痛の中一人死んでいくレノイを思って泣きそうになっていたから、そんな表情だったんだろうと思ってそのまま撫でられるままになっていた。
「それで窃盗と軽い傷害の罪に事情があったのが鑑みられて、そのまま地獄に逝くかここで死神をやるか迫られて今に至る、と」
 その手が離されて、レノイは続きを話し始めた。その突然の終止符にふと志織は首を傾げる。
「……それだけ?」
「死神になった経緯はな。それ話しておかないと、先の話出来ないから」
「いや、そうじゃなくて……瑞穂と瑞希の話だとなんかスゴく重大な罪を犯して、なのに減罪のために死神をやってる、みたいな話し方だったから……」
 言いながらあの双子に言われた時の事を思い出す。剣幕だけは確かにそんな感じで『利用されている』とまで言われたが、その罪が重罪か軽罪かまでは言ってはいない記憶があって、勝手に勘違いした志織の頭が混乱し始める。
「あー、そりゃ逆だ、逆。逆に重罪を犯した人間は死神になるかどうか選べもせずに問答無用で地獄に逝かされるって話だ」
「え、どうして?」
作品名:死神に鎮魂歌を 作家名:端月沙耶