小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

死神に鎮魂歌を

INDEX|27ページ/36ページ|

次のページ前のページ
 

 右側の扉だけが人が二、三人通れそうなくらいに志織達側に開いていて、まだ志織達と同じく少し遅い死神たちがちらほらと中に入っていく。
「レノイ探して『どうして置いて行っちゃったんですか!』って文句の一つでも言ってやれば? よっぽどの事情がない限り、ここの支部の死神全員いるはずだし」
「全員いるんですか?」
「うん、全員。それともレノイ探す前にオレと一緒に長老にお別れしておく?」
 ふと志織は考える。
 いくら志織が確かめたいと、話したいと思ってもレノイの方がその意思が無ければそれは叶わないのではないかと。例えば今、唯一会っている魂の回収の時は迎えに行く前の時間はほんの数分で短いし、魂の切断をした後は志織がまだまだ使い物になる状況にはない。それ以外の時間はまずレノイの方から避けられる。志織が避けていたのもあったが。
 そうなるとここの支部全員が一堂に会している今なら、不謹慎かもしれないが絶好の機会なのではないかと。
「……レノイを、探します」
 もう一度、ちゃんと話をしたいから。そんな事はないって信じている自分の気持ちを大切にして、今度はちゃんと落ち着いて話を聞こうと思うから。
 それが結果、遺言のようになってしまった長老の『今は辛くても志織には先を生きられる事が、また与えられたんだから』の先を生きる一歩のような気がするから。
「あーぁ。オレは振られちゃった。じゃあまた、後で」
「はい。ありがとうございます……!」
 片手を先に扉の中に入っていく空也を見送りながら志織は礼を述べた。
 そうして自分も空いてある扉の隙間から中に入って、志織はひどく驚く。
 まずとにかく広い。志織は生活圏が病院しか無かったため、適切な表現が思い浮かばなかったが、割りと大きな総合病院の入院棟のフロア四つ分くらいの広さで、六百人余りの死神がいると前、レノイから聞いていたが確かにそれ位の人数がいても狭さがまるで感じない。
 そして志織の頭上遥か上にあるのはあの水色の半球に根が包まれた植物達。それが志織にはランダムにフワフワと浮いて、白い空間に彩りを添えている。中には小さく花が咲いていてそれが志織の目線で浮いているものもあって、半球を突くとほんの少し冷たいのとゼリー状の感触を指先に与えて突いた方向へとゆっくり移動していく。
 そうして志織は何気無しに突いた方向を見てみると、それは部屋の奥へと移動していっていて、この広い部屋の最奥には
「長老……?」
 遠くてよく確認できなかったが、浮いていない様々な花々に囲まれて階段の一番上で大きく作られた段に黒い死神装束と白い髪をした人物が横になっていた。
 様々な死神が、死神装束とは違う別の黒い服を纏って、その階段を上っては横になっている人物に何か話しかけたりしては階段を下りていく。
 志織もそこへ行って何か言葉をかけたかったが、六百人以上はいるこの空間で、まだ死神の列が出来ている長老にそうするよりもレノイを探すのが先と、志織は視線を移動させた。
 何となくこういう人の大勢いる場所の中心にいそうには思えなかったから壁沿いに、黒い髪を持つ死神を一人一人、急いででも見落としがないように慎重に見ていく。途中で何人にも不思議そうな目で見られて恥ずかしくなってはきたが、それでも志織はやめない。
 そして偶然か運命か、そんなモノが味方してくれたのか志織が想像したよりも早くレノイは見つかった。数メートル先。何人もの死神の先に部屋の奥、長老へと続く階段と同じくらいの奥の壁際にレノイは一人で壁に背を預けて佇んでいた。
 見慣れないスーツ姿で、そして遠い目で長老のほうを見ているのか。そんな視線と一人でいる態度が今から声をかけようとしている志織を、レノイが気付いていない今でも拒絶しているように見えるが、一度勇気を振り絞って死神の間をすり抜けていった。
「レノイ!」
 そして志織はレノイの名前を呼んだ。
 自分が呼ばれた名前の声の大きさにレノイは驚いて志織の方を振り返る。
 そうして志織のスカイブルーの瞳とレノイのアズライト色の、同じ青なのに随分色が違う瞳がかち合う。そういえば、ここ最近はちゃんと目を合わせる事もなかったなと、志織は思う。
 けれどその深い蒼色の瞳は逸らされた。
「何しに来た」
「話をしに来たの。こうゆう場じゃなきゃ、レノイと話せないと思ったから」
「話す必要なんてないだろ」
「私はあるの。ねぇお願い。こっちを向いて」
「何で俺がお前の言う事なんて聞かなきゃいけないんだ。お荷物のお前に」
 その言葉にどうしても勇気が削がれる。けれど逃げたってそうしたら今と変わらない。今この場の中心にいる長老が、志織にくれた最後の言葉を思い出す。
 生きなきゃいけないって事は、きっとこうゆう事も越えて生きていくって事だ。
「どうしてそんな事言うの?」
「自覚が無いのか? 自分がどれほど」
「違う。そういう事じゃなくて。減罪のために私の指導役なんてしてくれてるなら、訊いた時にいくらでも嘘とか言い訳とか出来たはずだよね? だって私、何回も聞いたもん! 『嘘だよね?』って! その時に『嘘だ』って言って、都合のいい言い訳をしたら私はそれを信じた! そうした方が、減罪されるレノイの方にだって都合が良かったはずなのに、どうして全部認めて、今こんな気まずい空気をわざと作ってるの?」
「言い訳するのが面倒だったからだ」
「今の状況の方がよっぽど面倒じゃない! それに私はやっぱりどうしたって信じられない! レノイが私の事、そんな風に思ってたなんて信じられない!!」
 二人の口論に。否、志織の一方的な大声に周りで聞こえたらしい死神たちがザワザワし始める。
 その音に志織も本当にレノイの言ってる事が真実で、自分の一方的な考えだけが空回りしてるんじゃないかと思ったけど止まらなかった。ここで止まったらまた同じ事を繰り返し考える。
 長老が教えてくれたのはあの言葉の他にも、この死で死神だろうが何だろうが時間は有限という事。その時間を無駄にしちゃいけないと志織は頭のどこかで思っていた。
「確かに私はどう考えたってお荷物だったよ! それは私だって分かってる! でも違う、そういう事じゃなくて! レノイはそれでも私に優しかった! 分かりづらい優しさだったけど、ずっと私の事気遣ってくれたじゃない!」
「だからそれは俺の減罪のために都合が良かったからで……」
「じゃあ何であの時に『嘘だ』って言わなかったの!? あの時の私はほとんど初めて会った二人よりも、レノイの言葉を信じてたよ! レノイが減罪を望むならいくらでも私を騙せたじゃない!」
「……っ、ただ、指導だけしててもある程度は減罪されるし、普段からお前の世話役なんてもう面倒だったからだっ! お荷物のお前の世話なんて、魂回収の時だけでもうこりごりだ!」
「いい加減にしたら?」
 その時、二人の口論を割って第三者の声が二人を止めた。
「死神長……」
「理人さん……」
 そこにはレノイが寄りかかっていた壁の更に奥、こちらは普通のサイズの出入り口から入ってきた理人が二人の方を見ながらいた。
「どう、したんですか、その格好……?」
 そして志織はレノイとの話を一瞬忘れてそう訊いた。
作品名:死神に鎮魂歌を 作家名:端月沙耶