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死神に鎮魂歌を

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「「そうでしょ! そうだ、きっとそうだ! レノイにいいようにされて、それをそのまま脅されるネタにされたんでしょ!」」
 無の雰囲気からいきなり爆発するように二人はあらん限りの声で叫び始めた。
「ちょ、ちょっと……」
「「大丈夫だよ! 志織がそんな遠回しに言わなくたってあたし達が守ってあげる! 理人さんにはすぐ言って……、ううん、理人さんだと言い辛いだろうから椿さんにあたし達が言って志織からアイツを引き剥がしてやる!」」
「ちょ、ちょっと待って!」
「「どうして! アイツに脅されてるから!? そんなの大丈夫だよ! だから志織は早くアイツから離れなきゃ!」」
「何にもないから! 私、レノイに何にもされてないから!」
「「大丈夫だよっ! そんな嘘つかなくったって!」」
「嘘じゃないから! 本当に! 何にもないから大丈夫だって!」
 話を聞かない二人を止めるために、志織もあらん限りの声で叫んだ。
 その叫びでやっと二人の怒涛の言葉が止まる。けれど二人の目は未だに志織のその言葉を信じず、疑っている目だった。
「「……本当?」」
 その目を向けながら今度は二人は静かに訊いた。けれどその声は低く抑えられていて、ほんの少し突いただけでまた今の叫びに戻りそうな音があった。
「本当だよ。何にもないから」
 二人が何故いきなり激昂したのか分からないから対処法も分からず、志織は他には何も言わずにただそう言って出来る限り信じてもらおうと精一杯笑った。
「「……本当、だね? 本当に本当の本当だね?」」
「うん。本当だよ」
 志織は笑顔を続ける。そして二人は志織に向けている疑いを含む二対の瞳からほんの少しずつ、それを消していく。
「「志織がそこまで言うならとりあえずは信じるけど……、本当に何かあったら言ってね?」」
 自分の安全のためというより二人を安心させるために、志織はその言葉にすぐに頷いた。
 そうしてようやく二人は安心した証拠とばかりに、深く安堵のため息を吐いた。
「「よかったぁ……。志織がアイツにそんな事されてたらどうしようって本当に心配しちゃったぁ……」」
 そうしてついには安心したための涙まで流し始めた。花瓶を持っていたその手で二人はそれぞれ自分の顔を拭っていく。
 そこまで自分の心配をしてくれたのを嬉しく感じる反面、その二人の態度に疑問が膨らむ。
「ねぇ……、どうして二人はそんなにレノイが何かするって思ってる……というか嫌ってるの? いや、確かにあの二重人格は確かにちょっとヒドいと思うけど、優しいトコロもあるんだから何もそこまで嫌わなくても……」
「「え? 何言ってるの、志織?」」
 二人が涙を流し続けたまま、続ける。
「「そんなのアイツも元人間の死神だからに決まってるじゃない」」
「え……? 何、それ……どういう意味? 私も元人間の死神、だよ? 何で、私は違ってレノイはそんなに嫌われて……」
「「……そっか。志織は何にも知らないんだよね。でも来たばっかりじゃ仕方ないよね……。あのね、落ち着いて聞いてね。あたし達が志織を嫌わないのは、志織だけが元人間の死神の中で特別だからだよ。他の元人間の死神は皆嫌い。大嫌い! 志織は天国に逝けるのに死神になってくれたんだよね?」」
「う、うん……」
 何か、嫌な予感が志織の中を駆け巡る。
「「でもアイツらは違う。アイツらは卑怯者なの。地獄に逝って罰を受けなきゃいけないのに、死神の仕事をしたら罪が減るからって、地獄で罰を受ける苦しみよりもこの世界にいる事を選んだ奴らなの。アイツらは全員、生きてる時に罪を犯した犯罪者なの! 志織の指導をしてるレノイだってそう! 優しく見えるのはきっとそうやって指導したら罪が多分もっとたくさん減るからだよ! だって元人間の死神の一人が……っ!」」
 二人の顔が、同時に追憶の苦痛に歪む。
「「元人間の死神の一人があたし達のお母さんを殺したんだからっ! 元人間の死神は、志織以外全員犯罪者なんだから何をするか分からないんだからっ!」」
 高い叫び声は部屋中を反響して、さっきまでの内容に呆然としていた志織の鼓膜を更に震わせた。



 伸びてきた手を拒絶するかのように、志織はつい後ろに下がってしまっていた。
 そのせいで動いた椅子が、大きな音を立てて初めて瑞穂たちと会った休憩室に響く。
「……どうした?」
 手を伸ばしてきたレノイは不審な目をしたまま、伸ばした手で志織の頭をそのまま小気味いい音が響くほど頭を叩いた。
「いたっ」
「ぼーっとしてるのが悪い。第一このところそうしてるのが多くなってきただろうが。ただでさえお前はぼさっとしてるんだから、これくらい当たり前だ」
「…………うん」
 長い間の空いた返事を聞いているのかいないのか、レノイはもう志織に目を向けずに視線を明日からまた自分が回収しにいく魂のリストの束を見ていた。
 純粋な死神にも勿論あるが、元人間の死神にはあの記憶の奔流になるべく気が狂わないようにと、回収をしに行かない休みが少し多めに設定されている。と、昨日志織は理人から魂回収の報告をした時に聞いた。
 今日は志織が死神になってから初めての、その休日で。その休日は志織にではなく志織の指導役にあたるレノイに与えられたついでに志織も一緒にお休みする事になったんだとも。
 正直、休日があるという事を知らなかった志織には本当にありがたい話だった。
 ここ最近魂の回収に疲れてきたというのもあったが、個人部屋を与えられた時にお祝いの花を持ってきてくれた瑞穂と瑞希の言葉と憎悪の表情が頭の中をグルグル回っている。
『アイツらは全員、生きてる時に罪を犯した犯罪者なの!』
『元人間の死神の一人があたし達のお母さんを殺したんだからっ!』
 それ以来それも魂が精神体に半分ずつしか入っていない影響なのかまるで何事も無かったかのように、志織が魂の回収する時間まで家具を選ぶのに付き合ってくれる二人と一緒にいる時でも、レノイから色々教えてもらっている時でも、他の誰といる時でも一人でいる時でもその言葉が、頭の中にスピーカーがあってずっとそれだけを繰り返し大音量で流されているようにずっと木霊している。
 レノイと同じく、休日明けに自分が回収しに行く魂のリストを見ながらさっぱり内容が入ってこない志織は深く深くため息をついた。
 そのため息が聞こえているはずなのに何も言わずに、同じ姿勢を続けているレノイを志織はちらと見る。
 おそらくは誓約書の時と同じように、自分で悩まなければ意味がないとでも思っているのだろう。
 じーっとレノイを見ていると、その厳しいが他人のためを思う事が出来るレノイが人間の時、地獄に逝くほどの罪を犯したなんて思えない。
 元より情報が、あの二人からの話しかないのだ。
「ねぇ……、レノイはどうして死神になったの?」
 自分だけで悩んでいて出てくる悩みではない。だから志織は口を開いた。
 元よりレノイを信じていたから、そんな話一蹴するだろうと志織は確信していた。
 視線にもおそらくは気付いていたレノイは突然振られた話に、けれど驚いた様子も見せずに志織より多いリストの束からゆっくりと顔を上げる。
作品名:死神に鎮魂歌を 作家名:端月沙耶