心の中に
卯兵衛が恭しく頭を下げる。簪の上に滴が落ちた。亡き弟分の形見が、形を変え帰ってきたのだ。それにしても、八坂兵十郎の計らいは粋と言わねばなるまい。
いつの間にか、おみつも卯兵衛に寄り添っていた。
「これならば、安心して家宝にできますわね」
「仏壇などに飾るより、お内儀の髪を飾る方がふさわしいかな?」
八坂兵十郎が満足そうに笑った。つられて卯兵衛とおみつも笑う。
「しかし、八坂様……」
卯兵衛が八坂兵十郎をちらりと見ながら言った。
「罪を憎んでも、人を憎んではいけませんぞ」
「わかっておる。だが、このくらいのことは許されようぞ」
「うふ」
「あはははは……」
暖簾(のれん)から差し込む陽の光りが、書状のように伸びている。その真っ白な色が清潔で新鮮だった。
銀の十字架で誂(あつら)えられた簪は、伸びた光を反射して、神々しく光っていた。
(了)