わが家の怪
─六─ 《窓》
結婚した当初は気にならなかったが、十年以上経って家を建て増しして、裏庭に洗濯物を干すようになってから、ある視線を感じるようになった。
(それまでは二階の窓の下につるしていた)
裏庭に出ると、右側の上の方から誰かの視線を感じる。
見上げると、そこにはとある家の二階の窓がある。
古い木造の家で、かべにはツタが絡まり、いかにも、というようなたたずまいである。
その窓越しにおばあさんの姿が見える。
浴衣を着て、たぶんそれは寝間着なのだろう。青白い顔をしているので病気なのかも知れない。
じっとこちらを見ているので、普通なら目があったらあいさつをするのだけれど──。
「幽霊ってどんな風に見えるの?」
と、聞かれたことがあったが、実際に目に見えるのではない。
『見えた』瞬間、イメージが頭に浮かぶといったほうが適切だ。
そう、その窓には誰もいない。おばあさんも実体はないのだ。
現在その窓は雨戸が閉め切られ、姿を見ることはなくなったが。