わが家の怪
─伍─ 《女の子》
在宅ワークでカット描きをしているわたしをじっとみている目がある。
それに気づいたのは、いつだったか忘れたが。
いつの間にか、いたのだ。
廊下から上半身を傾けて、座敷をのぞき込んでいる女の子。
赤いちゃんちゃんこを着ていて、はいているのはもんぺ。
その子は笑っていて、悪意は感じられない。
いつからそこにいたのか?
不思議なことに、その子は部屋には入ってこない。廊下からのぞき込んでいるだけなのだ。
ただ、その子を見たのはこの家に来てからが初めてではない。
まだ実家にいた頃、それも夫と知り合う前だった。
新築してまもなくの家に、ある夏、漫画を描いている仲間がふたり泊まった。
いくつかのグループが集まって、東京のとある画廊でイラスト展を開いたのだ。ふたりともそこへやってきた名古屋の高校生で、当時は新幹線も十分でなく、帰りそびれてしまったのだ。
前日は東京の仲間の家に泊まったけれども、その日はその人の家は都合が悪いという。それでちょっと遠いが、わたしの家に来てもらうことになったのだ。
初めて会った二人だったが、漫画を描く仲間という親近感で、たちまち仲良くなり、その晩は遅くまで話し合ったり、絵を描いたりしていた。
そのとき一人が一枚の写真を出してきた。
しかもモノクロ写真だ。
後ろに山があり、手前の川岸に親子が5人くらい写っていたと記憶している。
モノクロなのではっきりとはわからないが、印象的だったのは、前列にいたおかっぱの女の子。
ちゃんちゃんこを着ていて、もんぺをはいていた。
その後ろにはセーラー服を着て、やはりもんぺをはいているお姉ちゃんらしい女の子がいた。
ファッションから察するに、戦時中らしい。
ただ、この写真は、彼女たちが撮ったものではなく、ある日、写真屋さんに自分たちの写真の現像を頼みに行ったとき、できあがったものの中に紛れ込んでいたというのだ。
親子の記念写真のようだが、よく見ると、川岸の岩や後ろの山の木の間にいくつもの霊が写りこんでいるという。
しかも、写真のおかっぱの女の子が、自分たちの仲間の一人のあとをくっついて離れないとも。
気味が悪いので、捨てるわけにもいかず持っているのだといっていた。
わたしに捨ててくれないかと言われたが、当然お断りした(^^;)
「やっぱり、お寺に持っていって供養してもらう方がいいね」
と、二人は言って、かばんにしまった。
その後、その二人とは多少の手紙のやりとりはあったが、やがて音信不通になった。
どこをどうやって巡ってきたのか。
赤いちゃんちゃんこを着たおかっぱの女の子は、いつのまにかわたしの、それも嫁ぎ先の家にきていたのだった。