わが家の怪
─拾四─ 《すれ違ったのは》
数年前のこと。
時間は、夜7時半くらいだった。
わたしと息子達は夕飯をすませたが、8時半頃に帰ってくる夫の夕飯を作るため、足りないモノを買いにスーパーへ行った。
なにしろ、メールで帰り時間を知らせてくれるのはいいが、ときたま同時に夕飯のリクエストをしてくる。
支度をする都合があるから、そう言うときは6時くらいまでにしてくれといってるのに、めんどくさがっているのだ。
それでも、ちゃんと間に合わせるわたしは妻の鑑ってか? ←誰も褒めてくれないから自分でいう(爆)
まあ、とにかく、その日は食べたいもののリクエストがあって、買い置きがなかったので7時半過ぎてから、閉店間際のスーパーへ向かったのだが……。
近道をして、神社の前の細い道を通る。
暗くなってからそこを通るのは、なんとなくいやな感じがしていた。それはいつものことなのだけれども。
神社の鳥居からまっすぐの道にさしかかったとき、反対側から女の人が歩いてきた。
やせて小柄だが、子どもではない。
うつむいて歩いている。
この道を通る人は限られている。
いつ何時、通りかかってもすれ違うのは顔見知りの人だ。
けれど、このときの女の人には、まったく見覚えがなかった。
道幅は2メートルもない。
わたしは右側を歩き、彼女も反対側を歩いているのだが、近づくにつれ、彼女の方はわたしに迫ってくる。
──な、なに? この人?
いくらうつむいているとはいえ、反対側から来る人間の気配くらいは感じるだろう。
第一、気がついたら顔くらい上げて、逆によけるのが普通じゃないか?
彼女がわたしの方へ向かってくるので、わたしはさらに右端の方へよけた。
しかし、彼女はいっこうに顔を上げず、うつむいたままわたしの左肩すれすれに寄ってきた。
そして、わたしと彼女が並んだとき、わたしは全身が凍り付いた。
何かあったわけではない。
彼女が人ではないと直感したのだ。
通り過ぎた彼女の方を見る勇気もなく、わたしは足早にその場を離れた。
買い物を済ませたわたしは、さすがにその道を通るのがいやで、別の道から家に帰った。
以来、やむを得ず7時半過ぎに買い物に行くときには、その道は通らないようにしている。