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せき あゆみ
せき あゆみ
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わが家の怪

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─拾参─ 《会社の怪》



 更年期障害を克服しようと、一念発起したわたしは、とある会社に入った。
 その会社でのこと。

 電車で30分行ったところに研修センターのビルがある。
 そこは、古めかしく、見るからにおどろおどろしかった。
 おまけにトイレは、真ん中の個室の上に長い髪がぬれてぼさぼさの女がへばりついていて、気持ちが悪かった。
 だから、わたしはできるだけ端の個室を使っていた。

 本採用になって、家から自転車で5分の営業部に通うことになったが、ここもなんとなく意味ありげな場所だった。

 わたしたちの事務室は3階にあり、出入り口は3カ所ある。
 わたしは真ん中のドアから出入りしていたのだが、そのドアのガラス窓にはきまって夕方6時になると、女の顔が写るのだった。

「あ、またきてる」

 と、わたしが言うと、同僚は怖がったが、悪意が感じられないので怖いとは思わなかった。

 肩までのセミロングの髪。白いブラウスを着た若い女の人だ。

 時には、事務室の中まで入ってきて窓際にいることもあったが、たいていはドアから中をのぞき込んでいた。

 しばらくしてから聞いた話では、昔、この営業部で働いていた事務職の女の人が、通勤途中で事故にあってなくなったそうだ。

 たぶん、その人だと思う。

 また、ある時、昼間会社に戻ったときのこと。

 事務室にはいると、誰もいなかったが、左手奥の給湯室から笑い声が聞こえてきた。

 それがMさんの声に似ていたので、「この時間にMさんがここにいるなんてめずらしい」と思いながら、入ったドアのすぐそばにある自分のデスクの席にすわった。

 その間も、楽しそうなおしゃべりは続いている。
 何を話しているか、内容までは聞き取れないが、とにかく笑いながら話していた。

 わたしは作った書類がプリンターから出てきたので、椅子から立ち上がって、プリンターの方へいった。
 そして、書類をとって、自席に戻ろうと振り向いた──

 プリンターの場所からは給湯室がよく見える。

 ──げっ!?

 わたしは自分の目を疑った。






 だれもいない──???






 さっきまでの楽しそうな話し声は、いったい誰がしていたのか?

 ぞっとしたわたしは、早々に部屋から出て行った。



作品名:わが家の怪 作家名:せき あゆみ