小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

知恵の実の毒

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
 2013年マダガスカルから西北西に100キロほど行った名もない孤島で新種の類人猿が発見された。
 チンパンジー属に分類されたその新種のサルは発見した学者の名を取りパン・パトリクシウスという学名が付けられた。
 大きな頭部と発達した手指、長い尾が特徴的なパン・パトリクシウス、通称リルブロはヒト科に属する新種の生物として、その発見を大きく取りざたされる事となる。
 チンパンジー属は高い知能を持つことが知らされている。同属のチンパンジーやボノボは道具を使い、独自の社会通念を持っているだけでなく、人間の教育によっては火を扱うほどの知能を持っている。リルブロもその生態から高い知能が伺えた。
 リルブロの生育する島では雨季と乾季の環境差が激しく、特に環境が劣悪となるのは乾季でなく雨季で、数ヶ月にも渡って止むことのないスコールが森のすべての可食物を腐らせ流してしまう。そういった環境でリルブロはある生態を淘汰の過程で手に入れていた。彼らは乾季のうちに腐った朽木の皮を集め温床を造り蝶や蛾の養殖を行う事によって雨季の食糧不足を行うのだ。
 この事実は彼らの高い知能を証明しており、動物学者達を大きく驚かせることになった。
 しかし、彼らの高い知能はそれだけに留まらなかった。この稚虫の養殖を彼らは群れで管理。高いシステム性の下で行っており、その管理維持に言語を介していたのである。
 そもそも言葉のようなものを使う動物は少なくない。犬でさえ鳴き声で感情を表現するし、イルカやコウモリなどは人間の可聴域を超えた周波の音で意思の疎通や情報の伝達を行っている。しかしそれは言葉ではなくあくまで鳴き声であり、より高度な存在の言語であるとはいえない。
 では、リルブロが操る物が鳴き声でなく言語であると何故言えるのか。それは彼らが群れの中で使う言語が、他のリルブロの群れとは異なるためだ。
 生態観察を重ねる内に彼らが言葉のようなもので意思の疎通を図っているらしいことはすぐにわかった。そして研究を続けるうちに同じリルブロでも生まれ育った群れの違いで同じシチュエーションでも異なる響きの音を使っていることがわかったのだ。これはすなわち彼らの言葉が、先天的つまり本能に基づくものでなく、後天的に習得するものであることを意味している。
作品名:知恵の実の毒 作家名:武倉悠樹