隠れて恋人関係
「あー、いや、そっか!朝食の残りものか!まあっ、残り物でもありがたく食わせてもらうよ!」
俺はフォローのため、必要以上に声を張る。が、しかし彼女は不機嫌な顔で言ってきた。
「なに言ってるのよ!早起きしてアンタの好きなものばかり作ってあげたんでしょ!」
「っ!?」
静まりかえる教室。俺のフォローは鈍感な彼女を怒らせただけだった。
「ゲフンッ!ゲフンッ!あー、部活が〜、引退するまで部活が〜」
俺はマヌケな不自然さ全開で注意を促してみるしかなかった。
「ん?あれ?………あ、そっか」
(「あ、そっか」じゃねぇっつーの!)
『あはははは、そうそう!お父さんが朝食食べてなかったもんだからさー、アンタに恩を売りつけとこうと思ってねー!』
「あはははは、そっかそっかー」
今更ながら返ってきた同意に、白々しく話をあわせるのだった。こんな俺達のやりとりに、もう大半の生徒達がチラチラ見ながら小声で囁きあっている。この異様な空気の中、俺は差し出された弁当を受け取り食べ始める。
「ど、どう?おいしい?」
彼女は周りはおかまいなしに俺の顔ばかり見てそう尋ねてきた。
「うん、うまい、残り物にしてはなかなかだ。味も俺好みだし」
話を合わせて言っているが、本当の俺は正直に嬉しく弁当をいただいていた。
「そう、よかったー」
彼女は華やいだ顔で口調が甘くなっていた。俺の焦燥感とは違い安堵感でいる。
(本当に俺達の恋人関係を隠す気があるんだろうか?)