幼馴染みが苦手です
「で、なんか用?」
もはや優雅な昼下がりをあきらめ、亜沙子の相手をすることにした。どうせこいつも、用事があったから叩き起こしたのだろうし …たぶん。
「歩いてたら、珍しく空也が屋上にひとりで居たのが見えたから、声をかけにきたの」
それだけかよ!
叫び出したくなる所をぐっと押さえて、説明してやる。ああ、俺ってば親切。
「あのな、別に珍しくないの。たまにはこういう時もあるの。年中つるんでいる、女子の皆さんとは違うの」
そういうと亜沙子は、つまらなそうに”ふーん”と返事をした。
「それで?」
「何を期待していたのか知らないが、とりあえず帰れ」
俺は出口を指さすが、亜沙子は指を指した方向とは反対のフェンスに向かって歩いて行き、俺に向かっておいでおいでをした。
「空也」
「なんだよ」
「いーから来て!」
さっきのお返しに無視してやろうかと考えたが、珍しく亜沙子の真剣な顔も手伝って、つきあってやる事にした。
のんびり歩いて、亜沙子の隣にたつ。
「中庭、ベンチのところ見て」
「?」
中庭には、創立記念の桜の木、園芸部のビニール温室と藤棚があった。そして水が出ない噴水の側には、生徒がくつろぐためのベンチがいくつか置かれていた。
まあ、たいていはカップル御用達。俺にはまったく縁がない。
この日は珍しく一組のカップルしかいなかった。お互いの膝の上には、おそろいの弁当とランチョンマット。おお、彼女の手作りってか?
男のほう、あのつむじは見たことがある!
「小田じゃーん。用事って彼女かよ。全然そんなの聞いてないぞ。よし、あとでこれをネタに集ってやる」
道理で4限の授業中、そわそわしていた訳だ。昼食の誘いも”用があるから!”と言い捨てて走っていったし。
心のメモに『小田、マックおごり』と書き、小田の彼女を見る。これまた見たことのある女の子だった。
「え、小田の相手って、佳奈?」
佳奈は亜沙子の親友だ。亜沙子と違って、万事控えめで大人しい。真っ白なワンピースが似合いそうな可憐な女の子。
前に俺がケガをしたとき、持っているからっと言って絆創膏を差し出したあの時の、はにかむ笑顔が本当に可愛くて、ものすごくどきどきした。
…そういえば、あの時小田もいたっけ……
何とも言えない喪失感を感じて黙り込むしかない俺に、亜沙子が追い打ちをかける。
「告白したの、佳奈の方からだから」
残念でした!と、超嬉しそうな笑顔で亜沙子は俺の肩を叩く。
「亜沙子はこれが言いたくて、わざわざ俺の所に来たのかよ!?」
フェンスの金網を背中に、ずるずると引きずるように座り込む。もしそれが目的なら、こいつは本物の悪魔に違いない。
しかも色々バレてるし、これから佳奈にどんな顔で会えばいいか判らない。最悪だ!
亜沙子は少し困った様に人差し指で頬をかき、俺と同じようにフェンスを背に座った。
「んーまあ、ちょっと違うかな」
「じゃ、なんだよ!」
「責任取ってもらおうと思って」
ちょっと待て、この場合被害者は俺の方だよな?
気になっていた女の子には彼氏が居ますよ、しかも相手は俺の友達ですよ宣言されて、おまけに失恋がばれて、涙目になっているのは俺の方だよな!?
なんで責任と取らなきゃならないんだ?誰か教えてくれ!