幼馴染みが苦手です
「小田くんは空也の友達でしょ?私は大事な佳奈をあんたの友達に取られたせいで、お昼はひとりになったの。だから明日から私と一緒にお昼を食べてよ。いいでしょ?」
加奈子は両手を祈るように合わせ、小首をかしげて”お願いポーズ”をとった。
……
「全力で断る!」
「いいじゃない。お願い!」
逃げようとする俺の腰を逃がすまいと亜沙子が抱きつく。ぎゅうぎゅうと抱きしめられて振りほどけない。なんでこんなに必死なんだ、こいつは!
「なんだったら、お弁当作ってきてもいいよ」
「離せ」
「味は心配しなくていいよ。お母さんの保証付き」
「まずは離せ。話はそれからだ」
「逃げない?」
「逃げないから離せ」
片手を上げて誓うと、亜沙子は渋々と抱きしめていた腕をほどいた。
「亜沙子さ、他に友達いなかったけ?」
「いるよ、でも空也がいい」
すがるような目つきで俺を見上げる。
「なんで、俺にこだわるの?」
とたんに亜沙子の目が泳ぎ始めた。
「あー… うん…」
なかなか言い出さない亜沙子を辛抱強く待ってやる。どうせこいつのことだから、たいした理由はあるまい。亜沙子の提案に俺が乗らなかったから、単に意地になっているだけの事だろう。
昼休みも残り5分か… なんてぼんやり考えていると、ようやく亜沙子が話を切り出し始めた。
「…佳奈が、ね」
なぜ佳奈の名前が出る?
「佳奈が、いい加減ちゃんとしなきゃダメよーって言ったから…」
そう言うと、亜沙子の顔が首筋まで真っ赤になる。まるで何かの科学反応のような劇的な変化に、こちらもつられて顔が熱くなるのを感じだ。
俺がなんとなく戸惑っているのに気付いたのか、亜沙子は俺の襟を掴み強引に顔を向きあわせ、息継ぎなんかしていない気負いで一気にしゃべり始めた。
「だから、ちゃんとしようと思って、あんたの教室に行ったら既にいないし、あちこち探してようやく屋上にいるの見つけて声をかけたらイヤフォンで聞こえてないし、パンツは見られるわ、やっぱりあんたは佳奈が好きだって判って最低だわ。めちゃくちゃよ!
お昼ぐらい一緒に食べてもいいじゃない、他にどうやっていいか分かんないのよ。幼馴染みってハードル低いようで、案外高いんだから!」
全力疾走の告白を終えると、亜沙子は肩で息をしながらパッタリとその場に倒れた。
俺の方はというと、失恋と思いもよらない相手からの告白で顔を真っ赤にしながら、亜沙子を見下ろしているしかなかった。
チャイムが鳴るまであと数分。
それまでに亜沙子になんて言ってやろうかと、真剣に考えを巡らせていた。