Happy New Year!
予想通りアイツの姿が見えた。
俺の存在に気づくとブンブンと大きく手を振り始めたので、周囲の人にぶつからないかハラハラする。
「貴志〜〜ッ」
まだ叫び続けている愚か者を止めるために俺は走り始めた。周囲の視線が気になったが前方のアイツだけを見据える。
「あけましておめでとうーッ!」
ゴールに立つ吉野香織は初日の出みたいな笑顔で少し荒い息の俺を迎えた。
「おめでとうじゃねーだろ」
「ん? だって、電話では言ったけど顔を合わすのは今年初めてじゃん」
「そういう意味じゃない。まあ……もういいや」
溜息まじりの俺の言葉をコイツはずっと笑顔で受け止めていた。
正月早々に俺も説教とかはなるべくしたくないので気持ちを切り替える。
「お前、まだ手を洗ってないだろ? 手水舎に行くか?」
「てみずや? なにそれ?」
「柄杓に汲んだ水で手と口を清めるんだよ。お参りの前の必須事項だ」
「いいよ、そんなの」
予想通り、吉野は“行かない派”だった。
すでに俺はここに来た時に両手と口を清めていたが、この神社において心身を清めてから参拝する人は少数派のようだ。俺は親の影響で必ず行なっていたけど、この季節に冷たい水で手を洗うのは楽しいことではない。大きな神社だと混雑による事故を避けるために手水舎を使用不可にする場合もあるみたいだ。
「神様のご機嫌を損ねても知らねーぞ」
「大丈夫だよ。わたし 神様と仲良しだから」
「……あっそ」
作品名:Happy New Year! 作家名:大橋零人