Happy New Year!
これで、当分アイツが来ないことは確定した。
今日は風もかなり冷たいので、ここで突っ立っているのも辛くなってくる。
かなり厚着をしてきたのだが、俺は寒さにあまり強くはないのだ。
待ち合わせ場所だった入口から神社内へと入っていくと絵馬の奉納所がある。
しゃもじ型の絵馬が数多く掛けられているのが特徴的だ。「救われる」という意味合いがあるらしい。
書かれている内容をチラリと見ると やはり合格祈願や恋愛成就が目立つけど、『今年こそ就職先が見つかりますように』みたいな切実なものから『世界が平和でありますように』のような壮大なものまで多くの願いがひしめいていた。
境内の奥の方には無料の甘酒が貰える休憩所があり、参拝客が座って飲めるようになっている。
俺は子供の頃から正月だけ飲めるこの甘酒が楽しみだった。身体が冷えている今こそ頂きたいのだが、どうせアイツも飲みたいと言うだろうから今はグッと我慢する。
ここではドラム缶で焚き火をやっているから暖かい。いくつか長椅子が用意されているけど、そんなに数があるわけではないので立ったまま身体を温める。
しばらく経って目の前の長椅子に若いカップルが座った。たぶん俺と同い年くらいだろう。男女とも顔に覚えは無いから別の高校なのかも知れない。
恋人同士であろう彼らが仲睦まじくするのは自然のことだが、頬を擦り合わせるようにしながら一つの甘酒を交互に飲んでいるのはいかがなものか。油断していると いつキスを始めてもおかしくないような雰囲気だった。
電車の中とかでも抱き合ったりキスをしていたりする男女を見かけることもあるけど、あれはどういう心境なのだろうか? もうお互いの姿しか見えなくなっているのか、あるいは周囲の者達に自分達のアツアツぶりを見せつけて優越感に浸っているのか。どちらにしても、第三者としてはあまり歓迎すべき光景ではないと思う。
そんなことを考えているうちに甘酒を飲み終えた彼らは立ち上がって寄り添いながら去って行った。
その後ろ姿をなんとなく眺めていると、少し離れた所から聞こえてくる声に気づく。
それは確かに俺の名を呼んでいた。距離を考えると、おそらく かなりバカでかい大声で。
俺は神社の入口の方向を見ようと人込みを掻き分けながら足早に移動する。
作品名:Happy New Year! 作家名:大橋零人