Happy New Year!
「クシュン」
帰り道で吉野がくしゃみをする。
「やっぱり寒いんだろ。そんな格好で来るからだ」
「だって、貴志が寂しがってると思って急いで来たんだもん。前にこの服が似合ってるって言われたからコレを着ちゃったんだよねえ」
「……誰に似合ってるって言われたんだ?」
「貴志にだよッ」
「そんなこと言った覚えはないぞ」
「悪くないって言ったじゃん」
「悪くないと似合っているは違うだろ」
「貴志の悪くないは最上級の褒め言葉だよ」
そう言われて過去の己の言動を顧みてみると、あまり効果的な反論が思い浮かばなかった。
「…… まあ、いいや。とりあえずコレでも着てろ」
俺はコートを脱いで渡す。
「でも、貴志が寒いんじゃない? わたしより寒がりなんだから」
「ああ、大丈夫だ。今は問題ない」
実際、その言葉は嘘でも強がりでもなかった。
コイツと一緒にいると寒さを感じている暇がないんだ。
「優しいなあ、なんか彼氏みたい」
「……みたいじゃないだろ」
「あ、そっか」
コートを羽織った吉野が腕を組んでくる。
この状態だと歩きづらいのだが、仕方ないのでそのまま歩いていく。
「あはは、貴志の心臓ドクンドクンしてるよ」
俺の胸元に顔を擦り寄せながら吉野が笑う。
「当たり前だ。生きているんだからな」
「そうだよねえ。わたしの心臓も同じだもん」
作品名:Happy New Year! 作家名:大橋零人