Happy New Year!
「おーい、聞いてる?」
気がつくと、吉野が俺の顔を覗き込んでいた。
「大凶だからってさあ、そんなに落ち込まないでよ」
「落ち込んでなんていない。大凶っていうのは今日この時の運勢が最低ってことで、これからは上がる一方なんだよ」
「でも、初詣のおみくじって一年の運勢を占ってるんでしょ?」
「だから前にも言っただろう。占いなんて本人の受け止め方しだいだって。どんな占いでも自分にとってプラスに解釈することは可能だ」
「でも出来ていないじゃん、貴志は」
そう言って吉野は俺のおみくじを奪い取った。
「ほら、代わりにコレあげるよ」
俺の手には吉野香織が引いた大吉のおみくじがあった。
「なんだよコレ? こんなことで運勢が交換できるわけないだろ」
「出来るよ。わたしがそう決めたんだから」
笑顔でそう告げたアイツがクルリと背を向けて駆け出す。
俺が茫然としている間に大凶のおみくじは焚き火をしているドラム缶の中に投げ入れられていた。
(ああああッ!)
あまりのことに愕然として声も出ない俺の前に満足げな様子の吉野香織が戻ってくる。
「はい。これで大丈夫」
「……なにがどう大丈夫なんだ」
神社のおみくじと言えば神様からの手紙みたいなものだ。それを燃やしてしまった。それも古いお守りなどを燃やす御神火ならまだしも、ドラム缶の焚き火で燃やしてしまったんじゃ弁解のしようもない。この世に神罰というものが本当にあるのならば、確実に発動条件を満たしていると思えた。
作品名:Happy New Year! 作家名:大橋零人