「架空請求」
次の日、目覚まし時計の鐘の打つ音で目が覚めた。
「朝か…」
祐介は部屋をかたずけながら、時計を見た。
「まだ、6時か。まだ時間はたっぷりある」
どちらかというと朝が苦手な祐介だったが、今日は早く起きることができた。しかもすこぶる調子がいい。頭の回転がいつもより早く感じるのだ。
「早めに仕事にいくか!」
会社のお荷物と言われている祐介にしては、珍しく仕事に意気込みを感じ、早めに出社した。
「おっ、祐介珍しいなあ」
同僚の男の何人かが目をしばだたかせながら、祐介をみやる。本当に祐介が早くから出社するのは、珍しいことなのだ。
デスクに座り、目の前のパソコンでプレゼン資料を作りだす。いつもなら、他の社員に聞きながら、それをまる写しするような能力しかない祐介だが、今回はよく閃く。まるで、力作のプレゼンを毎日のように作成しているような軽やかさで、資料を作っていった。
「……、こうすればわが社の売り上げは2倍になると考えられます」
後は部長に承認をもらい、一週間後のプレゼンに備えるのだ。ただ、部長も祐介の能力を信じていないから、祐介のプレゼン以外に他の同僚に三案考えさせる。そして、祐介以外の三案から選んで決めていた。祐介のプレゼンが選ばれることはないのである。
「部長できました。今回のものは今までで一番よくできたと思います。よろしくお願いします」
いつもなら、部長、これと小さな声でしか言わない祐介がここまで言ってきたので、部長も自然と眼鏡で昆虫でも見るように覗き込む。そして、祐介のいつもの顔を確認すると、
「まあ、見とくわ」と感心を持たずに他の資料に目を移した。
社内では部長が夕方までに全部の資料を確認して、その中から選び夕方5時の社内会議でプレゼン資料が決定する。祐介は少し早く出来すぎたので、パソコンでたまった報告書を書きあげていた。今日はとても調子がいい。今までこんなに調子が良かったことははじめてだ。思えば入社してから、ここまでうまく運んだのははじめてではなかろうか、と思う。
集中して仕事をしているうちに、書類の山がみごとに片付いた。
「あぁ、充実した一日だった。もうすぐ5時か」
もうすぐ会議の時間である。いつもの祐介ならば、この時ほど億劫なことはない。
なにせ、選ばれたプレゼン資料のこれからのプレゼンの仕方だけではなく、良くなかったプレゼンの問題点も言われるのだ。
祐介の場合、いつも部長にこう言われる。
「問題もなにも、全てが問題だ。やる気があるのか!」、と…。
だが、今日の祐介は何か違う感触を感じていた。部長がやけによそよそしいのだ。いつもより落ち着きが明らかにない。しかも、たまにこっちを見るのだ。もしかして、選ばれるのかも、と祐介は内心感じだしていた。