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「架空請求」

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 その翌日のことである。その日は日曜で出社する予定も入っていなかったので、昨日借りてきたDVDを夜遅くまで見ていた祐介は、朝七時に玄関前のインターホンのベルが聞こえた時には、強い眠りの中にいて一度でベッドから出ることができなかった。チャイムは二度、三度となり四度目になって、祐介は眠い目を擦りながら、誰だよ休みの日に、と心の中で来訪者に文句を言い実際の行動には、
「はぃはぃ、ちょっと待ってくださいね」とおばあさんのような返事をだし、扉をゆっくりと開けた。
 目の前には、作業服を着た背の高い宅配業者の男がたっていた。普段から配達作業で階段の上り下りをしているからだろう。がっしりと鍛えられた身体はラグビー選手のような風格があった。ただ、ヤマトなどの業者名は作業着には書かれておらず、ネームプレイトの上に宅配中と書かれたプレイトがなければ、ただの作業員と思っただろう。祐介は有名な宅配業者ではないのだろうか、と思った。
「昨日、ポストに投函させていただいた封筒を返してほしいのですが?」
「はい? 封筒ですか?」
 祐介は眠い目を擦りながら、ゆっくり考えた。強い眠気のためか頭の回転が鈍く、昨日の封筒のことを思い出すのにちょうど一分間かかった。
「あぁ、茶封筒のことですか」
 それにしても空の封筒なんて、だれが欲しがるのだろうか?
「でも、あれ中に何も入ってませんでしたよ?」
 祐介が宅配業者の男にそう言うと、男は非常に慌てた声で、
「もしかして、もう開けてしまわれたのですか?」と言った。
 開けたもなにも、中身が入っていない封筒だ。別に開けてもさして変わりがないじゃないか。それなのに何を慌てているのだろうか。てっきり重要な荷物を入れ忘れていたのを気づかずに、そう言ってきているだけなのだろうか。
 祐介はそう思いそれを正すために、
「封筒に入れ忘れたのじゃないのですか?」と言うと、
「違うんですよ。あれは中身にお届けものが入っていたのですよ」と言う
「でも、確かに空でしたよ」
「いえ、確実に入れたことは間違いないのです」
 宅配業者の男も会社から必ず入っていると言われただけで中身は確認はしていないし、商品が何であるかも詳しくは知らないそうだ。ただ、会社からは中身は開けるなと聞いているとのことだった。しかたがないので、祐介は開けた封筒を男に手渡した。
「これですよ、請求書と書いてありますが、中身はなにもありません。その証拠に封筒はぺらぺらです。あれ…? ぺらぺら」
 祐介はおかしいと思った。確か昨日は厚みがあったのだ。それなのに、ぺらぺらってなんだ。中身は確かに何度も確認したが、何もなかった、なのに封筒の厚みがなくなっているのだ。空気で膨らましていたのだろうか? でも、それだと握れば空気であることは分かるはずだ。確かにあの時、俺は中に何か入っていたのに気づいていたのだ。
「もう一度、本社に行って中に何が入っていたのか確認してきます」
 宅配の男は、封筒を受け取り、慌ててエレベーターを降りて行った。
「なんなんだ?」
 不思議な感じではある。封筒だから中身は感触でなんとなくわかる。それがないなんて。昨日は気にならなかったが、確かに封筒の中には何か入っていたのだ。

作品名:「架空請求」 作家名:ミラボー